[LIVE Report]姫乃たま、ワンマンライヴ『アイドルになりたい』@渋谷WWW 2017.2.7 Tue.

姫乃たま ワンマンライヴ アイドルになりたい

【公演】姫乃たま3rdワンマンライブ「アイドルになりたい」

【日時】2017年2月7日(火) OPEN 18:00 /START 19:00

【会場】東京・渋谷WWW

【出演】姫乃たま/僕とジョルジュ(金子麻友美/佐久間裕太/佐藤優介/澤部渡/シマダボーイ/清水瑶志郎/姫乃たま/山崎春美) /藤井洋平(Gt.)/STX(Ba.)&ジョンMANJIROU-metal(Gt.)&msys(Gt.)/DJ 中村保夫(和ラダイスガラージ)

【料金】前売¥2,500 / 当日¥3,000(ドリンク別)


撮影 ossie/文 編集部

本当に“地下アイドル”なのだろうか? 数々の疑問が浮かんでは消えたワンマンライヴだった。アイドルの現場には年に数回程度しか足を運んでいない筆者にとって“地下アイドル”という言葉は、恐らくそれと対になる“地上アイドル”が存在することを前提として作られた表現だと推測する。つまり、ジャニーズやAKB48、ももクロといったライヴで数万人を動員する輝かしい国民的アイドルグループや、数百人数千人程度動員する中堅規模のアイドルとの比較で使われる用語であり、もしくは一般的なアイドルの王道キャリア、すなわちオーディションやコンテストで上位に入り大手芸能事務所に所属してTVや雑誌などマスメディアへの露出でキャリアを積み重ねていくといったものに対して、事務所はあっても小さい個人事務所かフリーランスで、アンダーグラウンドな場で経験を積み重ねている過渡期アイドルの総称というイメージを持っていた。しかしどうやら姫乃たまに関しては、その認識は間違いだったようだ。初めて見た“地下アイドル”姫乃たまのステージは、どうみても筆者が知っている一般の“アイドル”のそれと比べても違和感なく、またある種それ以上のものを感じたからだ。彼女がワンマンライヴで提示したのは“地下アイドル”というよりも、ファンとの幸せな関係を築いてきた一人のアイドルの集大成、そのものだった。

会場入口
会場入口

“地下アイドル”を自称する姫乃たまが東京・渋谷WWWでワンマンライヴ「アイドルになりたい」を2月7日に開催した。これは彼女が昨年11月にリリースした初めての全国流通盤となるアルバム『First Order』と、スカートの澤部渡やキーボード奏者・アレンジャーでもある佐藤優介、金子麻友美らが参加し彼女自身がヴォーカルを務めるセルフプロデュース・ユニット“僕とジョルジュ”の新作アルバム『僕とジョルジュ2』とシングル『僕とジョルジュ2.5』のリリース記念イベントだ。この日は「僕とジョルジュ」名義と「姫乃たま」ソロ名義の両方で出演、いわばこれまでの音楽活動の集大成と今後の新たなスタートに向けた記念碑的イベントであったと認識している。(なおこの日はDJ魔法使いとコラボした”ひめとまほう”名義での出演はなかった)

彼女は昨年初めての単著『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』を執筆、その他にもおたぽる、週刊アスキー、NEWSセブン等に寄稿、ライターとしても活動しているマルチタレントのアイドルだ。アイドルは事務所に所属するのが一般的だから、フリーランスの立場でこれだけのことを実現できる彼女の行動力は目を見張るものがある。精力的に音楽活動・イベントも行っており、今回のワンマンについても事前に「ドサ周りツアー」と称して、大半のチケットを手売りでファンに販売、プレイガイド分と合わせて400枚以上あったチケットをイベント直前にはソールドアウトさせた。

スポンサーや事務所などのサポートなしで一個人が渋谷WWWを完売させるなんてそうそうできることではないし、彼女が見せたステージは地下アイドルという言葉が持つアンダーグラウンドなサブカルチャー的イメージを吹っ飛ばす、その言葉の枠組みを超えたものであったことは断言できる。

物販の様子 独特の姫乃ワールドが展開される
物販の様子 独特の姫乃ワールドが展開される

余談だが会場の渋谷WWWはスペースシャワーが運営するライヴハウスで、ここ数年は東京のポップスカテゴリのインディーズシーンにおける登竜門的な位置づけに成長している。デビューしたてのインディー・ロック/ポップスバンドがレコ発のツアーファイナルにこの会場を選ぶことも多く、もともと映画館だったこともあってどの席からでもステージが見やすい点が好評だ。LUCKY TAPES、スカート、cero、Awesome City Club、VIDEOTAPE MUSIC、YeYeらもこの会場を通ってきており、姫乃が今回この会場を選んだのは、どこかバンドに対する憧れを持っていたのか、もしくはアイドルである以上ファンにとってステージが見やすいことの重要性が念頭にあったのかもしれない。

この日のイベントは二部制で、第一部に登場したのは姫乃がヴォーカルを務める“僕とジョルジュ”。昨年より音楽レーベル“カクバリズム”での活動を本格的にスタートさせ勢いに乗るスカートのメンバーをバックバンドとしてサポートに迎え、一昨年にリリースされた「恋のすすめ」からライヴはスタート。白のトップスとカラフルなボーダー柄のスカートをまとって登場した姫乃、1曲目からファンの大声援を浴びて少し照れながらもとても楽しそうだ。キャッチーでどこか懐かしさも感じるメロディは、90年代渋谷系ムーヴメントや10年代の東京のシティポップスを通っている玄人リスナーが好みそうな楽曲で、そこに姫乃のストレートな歌がキュートな振り付けとともに絶妙にハマる。

僕とジョルジュ
僕とジョルジュ
僕とジョルジュ

話が少しそれるけど“僕とジョルジュ”名義ではネオアコ、ギターポップ、ボサノヴァ、フレンチポップなど多様な音楽に挑戦しており、一般的なアイドルソングとは音楽性において一線も二線も画しているので当サイトのリスナーにはぜひ聴いてもらいたい。特に「恋のすすめ」はフリッパーズ・ギターやピチカート・ファイヴ、シンバルズが好きなリスナーには必聴ソングだと断言できる。

そして折り返し地点となる4曲目、ここでサプライズゲストとして彼女のおばあちゃんである有賀幼子が登場、姫乃曰く“今回の出演オファーで一番交渉が大変だった”とのことだが、実の祖母と一緒にステージに立てたことについて姫乃はとても嬉しそうな表情を見せていた。またもや憶測となるが、アイドルという不安定な職業であるから、満員の会場を見せることで祖母を安心させたいという思いがどこかにあったのかもしれない。ゲストの有賀幼子が発したシンセサウンドにのって続けて「恋のジュジュカ」を披露、その他にも「悲しくていいね」など全6曲となる第一部は、分厚いバンドサウンドが支えていたこともあり、アイドルというよりもポップスバンドのステージそのものだった。

スペシャルゲスト 有賀幼子(右)
スペシャルゲスト 有賀幼子(右)

一部と二部の間には、貴重なオフショット映像も上映された。これはアルバム『First Order』のリリースプロモーションに密着した「ドサ周りツアー」の映像で、ディスクユニオンの音楽レーベルMy Best Records!のレーベルオーナー金野篤(通称:かねぴー)とミュージシャンのマーライオンと一緒に都内各地のレコード・CDショップをまわり、イベントライヴをこなす様子をスタッフ目線で捉えたものだ。いわゆるキャンペーンの裏側で起きていたドキュメンタリーで、移動中に時間が押してしまい行く先々のお店に遅刻のお詫び連絡を入れる様子など赤裸々な部分も含めた映像にファンは釘付けであったし、その努力に共感したファンも多かったであろう。

上映された映像。右はマーライオン
上映された映像。右はマーライオン

そしてステージの幕が開けて第二部がスタート。「姫乃たま」ソロ名義ということで、一人ステージに登場した姫乃は、オーケストラ(BGM)を流しながら踊り歌うアイドルスタイルでパフォーマンスを披露。白いドレスが会場の照明でカラフルに色づけられる中、「未来ラブソング」を皮切りに代表曲でもある「ねえ、王子」「マジで簡単なコネクション」とこの日はアルバム収録曲全13曲を全て披露。途中赤いドレスに着替え、アルバムにも参加したソウルシンガーの藤井洋平と「人間関係」をセッション、またアンコールでは初期の“*☆姫乃☆*”名義で活動していたころの「三両列車でにゃんだりあ」を2017年の特別バージョンとして、彼女の活動を初期からトラックメイカー兼ソングライターとして支えてきたSTXらによるスペシャルバンドで披露、最後はこの日二度目の「たまちゃん!ハ~イ」で締めくくった。

姫乃たまソロセット
姫乃たまソロセット

彼女のアイドルとしての人を惹きつける魅力、競争力はどこにあるのか、ステージを観ながらふとそんなことを考えていた。松田聖子のような卓越した歌唱力を誇るとまでは言えないし、エグザイルのようにダンスでの観客の魅了に特別な力点を置いているというわけでもなさそうだ。じゃあ別の視点、例えば何年も前からライヴ現場で耳にしてきた“楽曲派アイドル”(アイドル×音楽ジャンル)の切り口はどうだろう。“Perfume×テクノ”“BABY METAL×メタル”“Maison book girl×現代音楽”“大阪☆春夏秋冬×ファンク”“脇田もなり×シティポップ”といったように様々な音楽を歌い演奏するアイドルも増えてきており、各音楽カテゴリでアイコン化していく現象があちこちで見受けられる。しかし彼女の披露した音楽はシティポップ、エレクトロ、プログレなどわりと幅広かったこともあって、特定ジャンルに突出しようとしている様子は伺えなかった。ビジュアル面については好みもあるだろうから一概には言えず、また昨今のアイドルブームにおける人気の有無はビジュアル面に寄らないところも大きいためあまりここでは問題にはしていない。

姫乃たまソロセット
姫乃たまソロセット

ふとプロフィールに載っていた「自称エロ本育ち」というくだりが頭をかすめたけれども、それは彼女がアイドルを始めた当初にライター活動を行うきっかけとなったのが成人誌だったということから来ているので、気にさせるフックにはなっても人気との関係はないだろう。彼女はメイド喫茶の店長もやっていたというくらいだから接客やマネジメントには長けているのだろうなとか・・・彼女の魅力に関係ありそうなもの、なさそうなもの、様々なインフォメーションをインプットし整理する作業を行っていたのだけれど、これだと思えるものがすぐには思い浮かばないまま、ステージを最後まで観終えることになった。今回のワンマンライヴ一本だけではこれだという決め手は見つけられなかったけれど、終演後にライヴ会場をぐるっと見まわして感じたのは、先に挙げたような客観的なわかりやすい指標での比較ではなく、彼女をアイドルにしているのは、彼女の性格・キャラクターと8年にも及ぶこれまでの地道な情報発信や活動によって作られた「ファンとの強い絆」なのだろうというシンプルな結論に至った。

姫乃たまソロセット
姫乃たまソロセット

アイドル事情に詳しくないため主観的な見方に終始してしまうが、この関係性はロックバンドのそれに近いようにも感じる。ごく一部のメジャーアーティストを除けば、大半のバンドでは音楽性、歌、ビジュアル、バンドが持つストーリーなど第三者的なわかりやすい差別化ポイントよりも、結局はそのバンドとファンとの絶対的な関係性をどれだけ作ることができるのか、それが中長期的な活動をしていく上で最も大事だ。それと同じように、突出するアピールポイント一本を磨いて顔の見えないファン予備軍へ大々的に訴求するよりも、むしろ活動期間を通して少しずつ築き上げられるファンとの関係性を姫乃たまが大事にしてきたことは明白だった。

ステージでステーキを食べる姫乃
ステージでステーキを食べる姫乃

それは本編ラストの「くれあいの花」終了後の出来事。アンコールに応えてステージに上がった姫乃の前にはステーキとワインが用意された。“何故ステーキ?”と困惑しながらも、周囲に後押しされながら観客を背に椅子に座った姫乃の前に披露されたのは、この日のために準備されたサプライズのミュージックビデオ「ねえ、王子」だった。映像では全国のファンやスタッフなどこれまで姫乃と関係のあった人たちが次々に登場し、歌の振り付けを披露しており、彼女が本当に多くの人々に愛されていることがよくわかるビデオだった。このビデオを通じて、彼女がいかにファンに愛されてきたのかを存分に伺い知ることができたし、その映像から作り手の愛のある気持ちが伝わり、筆者も涙が出そうになった。

藤井洋平とのセッション
藤井洋平とのセッション

AKBが新しいアイドル像、いつでも会える身近なアイドル、を提示してから10年以上経つ。以前筆者は周りに数人いるドルオタ(アイドルオタク)に、何でそんなにアイドルにハマるのか聞いたことがあるのだけど、30代から40代独身の彼らが話していたことをまとめると、「日常生活を送る中で不満はないけれど、どこか寂しくて、そのスキマをアイドルに熱中することで埋めることができるから」というものだった。初期から見ているアイドルが成長して大きなステージに立つのを親のような眼差しで見守ることの楽しみ、純粋に好きなアイドルと会える楽しみ、ファンの友達と一緒に盛り上がることができる高揚感、アイドルの音楽作品・ビジュアルといった魅力も欠かせないが、突き詰めてゆくとその心のスキマを埋めてくれるものが身近に感じられるアイドルだったそうだ。

姫乃たまはどうか。彼女も親近感のあるアイドルという意味では、近年のアイドルブームの延長線上で見てしまいがちだが、恐らくそれは適合しないだろう。昨今のアイドルブームが起こる前、8年も前から独自路線で活動してきたことや、数年しか活動しない(できない)短命なアイドルが多い中、長年アイドルを続けていることから、彼女はアイドルを職業として全うしているのだろうし、そこからくる安心感はファンにとっても喜ばしいことでもあるはずだ。

アイドルと呼ばれる人の多くが10代でモデルやグラビア、音楽活動などでデビュー後、数年経つとドラマや舞台の俳優、アニメの声優、文章が得意な人は作家など別の仕事にシフトしていきアイドルという肩書きを外していく。むしろ外したがる人が多いのだけど、8年経っても彼女は未だに地下アイドルを標榜し続けている。これもまた憶測だが、もしかしたら彼女は自分のファンのために精一杯地下アイドルを続けているのかもしれない。もしくは続けることで彼女自身の存在意義を確認したいのかもしれない。別の言い方をすれば、彼女はいま身を置いている「アイドル」という肩書を、いつか過去に消えてゆくべき通過点ではなく、常に彼女のそばに携えてある勲章として、そしてファンとの間に絆を築き上げてゆく姿こそを、自らのアイデンティティとして選び取ったのかもしれない。 この日の会場は10代から60代までと年齢層は幅広く、男性ファンはもとより女性ファンも多かった。世代を超えて集まった人々が楽しそうにしている姿を見て、時折起こるコール&レスポンスの動作を見て、彼女自身もアイドルでいることの存在意義や必要性をステージ上で存分に感じただろうし、それはこの日のスペシャルなイベントだけでなく、日頃から大小問わずあちこちのイベントでステージに立ち続けている彼女にとっては日常的なことなのだろう。

アンコールのスペシャルバンドセット
アンコールのスペシャルバンドセット

この日のイベントタイトルは”アイドルになりたい“だった。当初は彼女が”地下アイドル“から”(地上)アイドル“になる、すなわち活動のステージをメインストリームに持っていくキッカケにしたい、という意味なのだろうと安易に捉えていたのだけれど、このことを素直に反省したい。彼女は既に会場にいるファンからしたら誰にも負けないアイドルだったし、初めて彼女を見た筆者にとっても、他のアイドルのステージと比較して遜色なかった。バンドスタイルとアイドルスタイル、VJを多用した演出にペンギンダンスと、表現の幅もユニークでクオリティの高いものだった。アイドルという言葉が正しいのかはわからないが、少なくとも気になる存在にはなったし、だからこうして今筆者は文章を書いている。筆者の場合、そのようなバンドや人間に出会えるのは一年に数人いればいいほうなので、自分でも正直不思議である。こう書いては身も蓋もないけれど、結局地下とか地上とかそんなことはどっちでもよかったのではないか。姫乃たまはあの場にいたファンにとっては正真正銘のアイドルだったし、本当に素晴らしいステージだった。

setlist

【僕とジョルジュ】

1.恋のすすめ

2.悲しくていいね

3.巨大な遊園地

4.恋のジュジュカ

5.変な恋

6.かえせ!太陽を

 

【ソロセット】

1.来来ラブソング

2.ねえ、王子

3.マジで簡単なコネクション

4.DSK019

5.たまちゃん!ハ~イ(町あかりオリジナルトラック)

6.拝啓ジョーストラマー

7.おかえりのうた

8.静かに静かに

9.愛はさかあがり

10.言いたいことがあるんだよ

11.そういうこと

12.人間関係

13.おんぶにダッコちゃん

14.さよならのワルツ

15.くれあいの花

 

encore

1.三両列車でにゃんだりあ2017

2.たまちゃん!ハ~イ(7インチ版 宮崎貴士アレンジ)

姫乃たま

First Order

2016年11月23日リリース

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僕とジョルジュ

僕とジョルジュ2.5

2017年2月8日リリース

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掲載日:2017年3月28日