#002 『胸キュン☆アルペジオ Takayuki Fukumura with Friends』/Various Artists

胸キュン☆アルペジオ~Takayuki Fukumura with Friends

 

 

 

 

 

 

 

 

『胸キュン☆アルペジオ~Takayuki Fukumura with Friends』

Various Artists

2012年11月7日発売 ¥2,300円(tax in)DQC-977/CD

 

<収録曲>

01.Majestic Monochrome / Three Berry Icecream 
02.風の声 / 胸キュンFriends
03.STARS / advantage Lucy 
04.Color of sound / Bertoia
05.空の味 / Clay Hips:Brent Kenji (From USA/Germany)
06.言の葉 / 胸キュンFriends
07.RIBBON / Swinging Popsicle
08.カリフォルニア / 胸キュンFriends
09.Your Music Will Never Die / VASALLO CRAB75
10.Fly down / the primrose
11.アルペジオの環 / 胸キュンFriends

 

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さよならの向こう側


text by 立原亜矢子

 アメリカはサンフランシスコに生息するローランドゴリラのココは、自分が大切に育てていた猫のボールが亡くなった瞬間、とても悲しみ、声をあげて泣いたという。さらに、手話が話せるゴリラとして有名なココは、“死”について、「Confortable hole bye. (苦労のない 穴に さようなら)」と手話で話し、人間よりも深い死生観を持っているのでは?と話題になったことは記憶に新しい。

 

死とは突然やってくるもので、上に話したように動物ですらも深い悲しみに包まれ、なかなか立ち直れない。イスラム教では、“人は2回死ぬ”といわれている。ひとつは、肉体の死。もうひとつは、人びとの記憶から消えてしまう死。

 

9年前に一人のギタリストが突然この世を去った。advantage Lucy、VASALLO CRAB 75の福村貴行、享年28歳。あまりにも早すぎる死に、周りは動揺し、悲しみに明け暮れた。人びとの記憶から消えないように、彼が生きていたという証を残そうと、今回10回忌の節目にトリビュートアルバム『胸キュン☆アルペジオ〜Takayuki Fukumura with Friends』が11/7に発売された。この一枚は、そんな彼の生き様を凝縮したかのような、ちょっぴりお茶目で優しく暖かいアルバムとなっている。

 

軽快で明るいギターのカッティングと甘く柔らかな男女ボーカルで始まるThree Berry Icecreamの楽曲を皮切りに全11曲の編成。ネオアコ/ギターポップの楽曲が中心となり、歌詞は亡くなった福村を想起して書かれている。しかし、当然だけれども、ただのネオアコ/ギターポップの作品集と片付けてはならない。このアルバムは、天国にいる福村へ向けてのラブレターといっても過言ではない。

 

9曲目に収録されているVASALLO CRAB 75による「Your Music Will Never Die」。楽曲タイトルの時点で、彼への愛が十二分に示されているのだが、「革ジャンに身を包んで/天然パーマのパンク少年/ギターを抱えて/夢をみる」との歌詞は、高校時代から共に過ごした工藤大介(Vo/G)から見た当時の福村の姿を現している。バイクで疾走しているようにスピード感のあるメロディに、透き通り突き抜けた歌声。そして、所々に見えるギラついたギターソロ、ぐっと上へ持ち上がるかのようなベースの運指が合わさって、聴いていて気持ちのいいドライブ感のある楽曲だ。彼が居なくなっても、良い意味で、辛さをもろともせず懸命に生きている印象を受けた。

 

また、advantage Lucyの「STARS」は、普段のadvantage Lucyとは異なる少しメロウで刹那的な楽曲となっている。中心となって楽曲を作成したアイコ(Vo)曰く、「アホな事を言ってコロコロよく笑う生前の福村をイメージした楽曲を作れたら最高」だと考えていたのだが、「ファニーな曲を目指して1曲作りかけていたのですが、どうも、しっくりこない。」ということを悩んだそうだ。

 

しかし、もし福村が生きていたら、ここでどんな楽曲を持ってくるだろうか?と考えた末に、生前彼が「自分たちのハードルを超えた曲しか出してこなかったこと」や「少しメロウな曲が好きだったこと」を思い出し、今回の作品制作に踏み切ったようだ。聴いてみると、「消えないよ/本当のことは/君と過ごした季節を/抱きしめる」と、ネガティブな言葉が随所に散りばめられ、少し暗く切ない。可憐な少女が日向で歌い遊ぶような、普段のadvantage Lucyからはあまり想像つかない歌詞だ。

 

しかし、この暗さは悪いものではない。彼らが福村の死を真摯に受け止め、次に私たちに出来ることは、彼の死を想いながら前へ進むこと、肉体はもうないけれど、精神は私たちの心に宿っているよ、星になってしまった福村よ私たちをそっと見守っていてね。という前向きなメッセージが込められているように感じられる。

 

そして特に、彼への愛を感じられた作品が、Swinging Popsicleの「RIBBON」だ。 ギターとシンセサイザーのメロディと柔らかいワルツのリズムにのせて、藤島美音子の優しい歌声が響き渡る。冒頭に「君の笑顔を思い浮かべるたび/あの頃の思い出が蘇ってくる」とあるように、歌い手である藤島が福村へ向けて言葉を贈っていることが聴いてすぐにわかるほど、明確に歌詞が書かれている。そのため、生前の福村を、写真や映像で見ているかのように、姿が鮮明に思い浮かんでくる。まるで“リボン”のように人と結びつき、おそらく福村を知らない人でも彼を想い、胸をじんわりと熱くさせるだろう。

 

死。それは切っても切れないもの。けれども、そんなに悲観することはない。なぜなら大勢の人たちによって、もう姿は見えないけれど、心の中でありありと生き続けるからだ。その、小さな灯火が消えない限り、私たちは福村の作った音楽で彼を思い出し続け、記憶の中で確かに生き続けるだろう。