MK日記。-出版不況・ネット全盛の時代にあえて2人でインディーポップZINE(雑誌)を作る理由とファンに届ける企画の立て方。

 

こんばんは。

久しぶりのMK日記。です。

 

MK日記。では音楽業界の片隅で感じていることをつらつらと書いています。日々バリバリに音楽ビジネスに身を投じている方々からしたら、恐らく目新しいことはないと思いますが、もし興味があればお読みいただければと思います。

 

 

今回はなぜインディー・ポップZINE、音楽雑誌を作っているのか?

制作の裏側について少しばかりお伝えします。

 

 

【目次】

1.何故雑誌を作っているの?

2.どうやって作っているの?

3.ぶっちゃけ売れるの?

4.大事なのはイベントグッズとして届けること。

5.よかったこと。

最新号のポプシクリップ。マガジン第6号
最新号のポプシクリップ。マガジン第6号

1.何故雑誌を作っているの?

 

作っていて楽しいから・・・というのは大前提として、一番はリスナー・ファンの方に喜んでもらえるからです。雑誌への憧れと現状の雑誌への苛立ちなんかも多分あります(笑)。

 

初めて作ったのは、2013年のPOPS Parade Festival のときです。

このときは、A4フルカラー16Pでした。雑誌といっても、イベントパンフレットとして作ったのがはじまりです。イベントに出演いただくミュージシャンをもっと丁寧に紹介したいと思ったのがきっかけでした。

 

音楽イベントって大小様々で世の中にたくさんあるんですけど、なんらかの特長を出したいなと思ったんです。自分ができることは何なのか考えたときに、WEBサイト運営で取材やら記事を書いていたので、それらの経験も活かして作ってみたら面白いんじゃないかと。

 

パンフレットといっても、6万字以上ありまして・・・書くの大変でした。イベント直前2週間は、準備もしながら雑誌作りに追われて毎日徹夜でしたしね(笑)。一般的な文庫サイズの新書が10万字と言われているので、まあまあの文字数だったと思います。

 

そして初めて作ったパンフレット冊子が即日完売したんです。会場オープンしてすぐに物販コーナーに長蛇の列ができまして・・・。すごくビックリしました。もちろん出演者の魅力あってこそ・・・ではありますが、嬉しかったんですよ。このときの体験があったのは大きいです。

 

 

 

あと、普段WEBサイトを運営していて思うのは、あまり信用されないってことです(笑)。例えばニュース記事を読んだとき、それをどこのニュースサイトで読んだのか覚えている人ってどれくらいいるんでしょうか?

 

ナタリーで読んだのか、CINRAで見たのか、オリコンで気づいたのか、ヤフーで見たのか・・・。今のWEBニュースは、転載も多いのでどこの誰が書いたかなんて、ほとんどの人が気にしていないんですよ。多分「スマホで読んだ」くらいの感覚でしょうね。

 

新聞記事だと「日経で読んだ」とか「朝日で読んだ」という会話はまだ成り立ちます。仕事上は特にそうです。でもWEBではレビュー記事、インタビュー記事など読み応えのある記事は別として、情報だけのニュース記事は、どうも印象に残らないんですよね。WEBは玉石混交ってこともあって、あまり相手にされない感じがありました。何かの折に自己紹介しても”へえ・・・”で終わるんです。まあそんなもんですよ。

 

 

ところが冊子を渡すと結構信頼してもらえるんです。目に見えるものを取り扱っているほうが、いい意味で伝わるみたいですね。リアリティがあるっていうのかな? ミュージシャンと話をすると、彼ら曰くCD作って全国流通させてようやく周りからは認めてもらえるんだよね、といった空気があるのをよく聞きます。友達に配信楽曲聴かせるより、作ったCDを渡したほうが伝わるんですって。多分それと同じなんでしょうね。これもあと数年で変わるのかもしれないけど、実際問題そうだと思いますよ。CD手渡されたら、やっぱり感情移入しますもん。

第1号から第4号
第1号から第4号

2.どうやって作っているの?

デザイナーと二人で作っています。いわゆるDTP(Desk Top Publishing)です。

 

人に頼むだけの予算がない、という理由が一番ではありますが(笑)。

きっかけになったのは、あるライター講座に通っていたとき、次の話を聞いたからなんです。

 

音楽雑誌『ele-king』をご存知ですか?(記憶あいまいなんですけど、確かele-kingだったかと思います)この雑誌は野田努さんと三田格さんという二人の編集者が原稿をまとめて、野田さんの奥さんがデザインをして作っているんだそうです(聞いた話なので事実が違っていたらごめんなさい)。

 

雑誌って大人数で作っているイメージを持っていたんですよ。まあ実際には外部のライターやカメラマンなども関わっているわけですが、二人、三人で作れると聞いたとき、その言葉が印象に残ったんです。それで、デザイナーさえ見つかったら自分でもできるかもしれないと思って、DTPができるデザイナーを探しました。最初は経験のある人がいいなと思って探したのですが、条件が合わなかったんです。小規模な制作部数で出せる謝礼ってそんなにないわけで、そりゃ多少の予算は考えていましたけどね・・・。

 

それでどうしようかと悩んでいたところ、デザイナーでDTPは初めてだけどソフトは持っているのでやってみたい、という方に出会えました。これが僕にとっては運命的な出会いだったんです。しかもギターポップも大好きな方ですごく嬉しくて・・・二人三脚ではじめることにしました。ツイッターのおかげです。


ちなみに出版社で働いている友達も何人かいるので、わからないことは聞くようにしています。アドバイザーを常に持つことは新しいことをやるときは大事だと思うので。とはいえ基本本読んで独学です。。。

 

 

主な制作ツールはAdobe InDesign、Photoshop、Illustratorです。

原稿は一般的なWordやテキストエディタで書いています。各ページの割り振りや構成の作成には、エクセルを使っています。WEBの仕事ではページの校正書をエクセルで作ることが多いものですから、その延長で・・・。

 

ラフな構成を考えてデザイナーに提案して、デザインに起こしてもらっています。色んな雑誌を参考にしながら、こんなイメージで作れないかな? と伝えてみたり、色々ですね。構成の大半はデザイナーと一緒に考えてやっています。エディトリアルデザインについては、正直まだわかっていないことも多いので、専門書を読みながら勉強してやっている感じです。

 

余談ですけど、この前WIRED編集長若林さんのお話を聞く機会があったのですが、若林さんも”雑誌なんて3カ月あれば一人、二人で作れるんですよ”と話されていました。

 

 

完成した原稿データを印刷会社に入稿して、あとは刷り上がるのを待つだけです。1週間から10日くらいです(校正チェックや受け入れチェックなどはもちろんありますけどね)

3.ぶっちゃけ売れるの?

Amazon 音楽雑誌売れ筋ランキング
Amazon 音楽雑誌売れ筋ランキング
Amazon音楽雑誌売れ筋ランキング
Amazon音楽雑誌売れ筋ランキング
Amazon音楽雑誌J-POP売れ筋ランキング
Amazon音楽雑誌J-POP売れ筋ランキング

はっきり言うと、思ってたより売れないです(泣)。出版不況をこんなところでも肌で感じます。

 

この売れません、ていうのは全国流通している商業音楽誌と比べたら、部数は桁違いに少ないという意味です。何故ならイベント会場限定で細々と販売してきたからです。


それでも第1号から第3号は完売、第4号と第5号は残り数十冊になりました。


 

12月に発売した第6号は、初めてAmazonでも販売してみました。

そしたら音楽雑誌売れ筋ランキング総合では最高8位、J-POP雑誌売れ筋ランキングでは最高5位を記録したんです。上記は12月上旬時点のランキングです。今は100位~1,000位くらいを行ったり来たりしていますが・・・(笑)。

 

Amazonに出して100位になって、その後すぐに20位を超えて17位になったんですよ。一番左の画像がそのときのものです。エグザイルさんと星野源さんの間ってすごいですよね(笑)。びっくりです。数日後さらにランキングが伸びていきまして、10位前後をしばらくウロウロしていました。そして自分が見たなかでは最高8位、4位だったんですよ。

 

その後は20位前後を結構長い間キープしていました。今となっては好きな人しか聴かない音楽ジャンルであるギターポップ中心の音楽雑誌で、この結果は嬉しかったですね。


表紙だったSwinging Popsicleさんはじめ、関わってくださったミュージシャンの皆さんのおかげです。これだけ見たら、Amazonではそこそこ売れた、と言ってもいいのかもしれません。

 

もし全国の書店に置くことができれば、他の商業誌さんほどではなくても売れるのかもしれませんね。ただ・・・そんな勇気も予算もないので(笑)、細々とやっています。これだけを見て、売れると考えていいとは思わないけど、ポテンシャルはあるのかも? 

 

 

少し調べてみたのですが、日本の書籍・雑誌のマーケットは1兆6千億円程度で、そのうち雑誌は5,000億円程度です。Amazonの書籍や雑誌の販売金額は非公表なのですが、2009年時点では1,275億円で、2004年からの5年で倍になっていました。それから5年以上たっているので、さらに倍とまでならなくてもざっと2,000億円くらいはありそうです。それで仮定すると全体の12.5%。乱暴にいえば、全国の書店で販売したら今の8倍くらいのポテンシャルがあるってことになります。ただAmazonは都市近郊の利用者が多いみたいなので、それらを勘案すると5倍から6倍くらいととらえるのがいいのかな? ざっくりそんな感じです。

 

 

それでもってマジメに収支計算したら今のところは赤字です、実際は。

 

 

A・・・雑誌の販売だけで、制作費・印刷費及び関わった人間全ての人件費までペイできる

B・・・雑誌の販売だけで、制作費・印刷費及び外部の人件費まではペイできる

C・・・雑誌の販売だけで、制作費・印刷費まではペイできる

D・・・雑誌の販売だけでは、制作費・印刷費すらペイできない

 

 

商業誌は「A」が基本です。赤字事業を続けることなんてできないはずなので。できるとしたら他の事業で稼いだ利益で赤字分補填しているんでしょうね。

 

私のインディー・ポップZINEの場合、大体「B」か「C」の状況です。外にお願いしているのはゲストライターとカメラマンくらいかな。あとは全て自分たちでやっているので、なんとか成り立っている状況です(取材経費もばかにはなりませんが・・・)。

 

僕らはもともとプロボノ形式でやるスタンス、つまり利益を求めないポリシーです。ポリシーに照らしあわせると、経費をなんとかやりくりできているので、問題ないといってもいいのかもしれません(第6号は経費がかなりかかっているからもっと売れないとヤバイんですけどね・・・)。販売目標も「B」を目指していて、厳しく控えめに設定しています。


ちなみに今のところ広告は一切いれていません。何故なら伝えたいバンドがたくさんあって、ページが勿体無いからです。広告ページ作る予算があったらミュージシャン紹介したいので。予算があったら広告いれてもいいかなと思うけど、まあしばらくはいいかなー。裏表紙を見ると如何にも広告のように見えるのかもしれませんが、あれも違います。僕たちが紹介したいから作ってます。


 

よって自分たちの立てた計画をギリ達成しているという意味では、売れている、と言ってもいいですし、客観的に他の音楽雑誌と比較したら、売れていない、です。ただ大事なのは自分たちが届けたいファンに届けられているかであって、おかげさまでそこはなんとかできていそうな感じの手触りがあります。

 

 

人を増やして、記事の質、量をあげていくためには、販売規模がもう少し伸びないと難しい状況です。もうひとふんばりかな。

4.大事なのはイベントグッズとして届けること。

制作面、販売面、企画面、どれも結構大変です(笑)が、まあ好きなことをやっているので苦にはなっていません。それぞれで少し考えてみます。

 

 

<制作面>

月並みですが、締切に間に合わせることがやっぱり大変です。あと関係者への利用許諾を取るのも、地味に手間暇がかかります。例えばCDのジャケット画像を使うにもレーベルの許可がいります。インディーレーベルさんはわりと好意的に”ぜひ使ってください”と言ってくださるのですが、メジャーレーベルさんの場合は単純にそうとも言えないんですよ。またインディーでも昔の作品で、既に解散してしまったレーベルだったりすると関係者を探し出すだけで大変だったりします・・・。

 

レーベルが売り出し中の作品であれば無償で許諾をくれることも多いのですが、昔の作品だったりすると使用料を取られる会社もあります。そこは交渉です。ダメな場合もあれば、企画が良かったりするとOKの場合もあって、ケースバイケースです。これまでの実績を説明したり、企画書を提出して理解を求めたり、別の企画とバーターでの交渉などをしながら、なんとかやっています。勉強になること、本当に多いです。

 

制作期間、第1号から第4号までは2週間から1カ月くらいでした。A4フルカラーで8ページから20ページ程度。32ページとなった第5号は、1カ月半くらいだったかな。大幅リニューアルして68ページとなった第6号は3カ月かかりました。制作に費やした時間は、第6号のときで、二人で延べ400~600時間程度でしょうか。もっとやっていたような気もするけど。

 

 

<販売面>

最初はイベントパンフレットからスタートしたこともあって、イベント会場での手売りが中心です。12月に作った第6号ではAmazonでも取り扱ってもらうようになりましたが、Amazonは手数料が結構かかるので、手売りの倍売らなきゃいけないんですよ。ただ、Amazonに出したことで認知は一気にあがりましたし、届けやすくなったので、やってよかったなとは思っています。今後はAmazonに出すタイミングは少し遅らすとか、やり方を見直す必要はありそうです。

 

 

<企画面>

企画面について、もう少し詳しく書きますね。

この雑誌はミュージシャンのファンの方に届けたいと思って作っています。イベント会場での販売が基本なんですが、「イベントグッズの一つとして届ける」ことを大事にしています。

 

名もない雑誌を店頭に並べたところで、売れるとは思えなかったんですよ。砂漠に水をまくようなものなので。でもイベントグッズだったらどうでしょうか? イベントに来るファンはコアな音楽ファンです。そのイベントに連動したパンフレットであれば、ファンがその場で買う動機になるんじゃないかって考えたんです

 

第6号では、「胸キュンアルペジオ特集」「Swinging Popsicleの巻頭特集」「杉本さんと常盤さんの音ゲー対談」がそれにあたります。

 

「胸キュンアルペジオ」の特集は11月下旬に行われた同名イベントのファンに届けたかったんですよね。13回忌という節目でしたから。「Swinging Popsicleの巻頭特集」は12月に新作リリースとワンマンライヴがあったので彼らのファンに届けたいと思ったんです。また12月にはギターポップレストランのイベントで常盤さんと杉本さんが共演したので、彼らのファンにも読んでもらいたいと思って「杉本さんと常盤さんの音ゲー対談」を提案しました。


雑誌って誌面上での対バンイベントだと思うんですよね。リアルイベント同様、色んなミュージシャンに参加いただきたいなと思っています。



企画をする上でもう一つ大事にしていることがあります。それは「今話題の人を取り上げるのではなく、その人にとって節目となる、大事なことを取り上げる」ことです。これについてはまた機会を改めて書きたいと思います。


 

ちなみにイベント来場者におけるパンフレット冊子の購入者割合ですが、ポプシクリップ。マガジンの場合はだいたい30%です(POPS Paradeの場合、他のイベントの場合はグッと少なくなります)。過去に一度だけ80%に達したものもありますが・・・。

 

参考までにライブイベントのグッズの購入率は、おしなべると平均6%くらいだと言われています。これは3年前のある調査結果数値なので、今はライヴが主体的になっていて魅力的なグッズも増えているからもう少し高いとは思います。それと比較してもわりと高めじゃないかと思います。

 

多分普通にギターポップの誌面企画をして店頭で売っても、売れなかったと思うんです。残念ながらマイナーな音楽ジャンルですから・・・。でも”イベントグッズの一つとして、ライブに来てくれるファンに楽しんでもらえるようなものを作る”という考え方を軸に特集を企画し、制作することで小規模ながら継続して作れるようになりました。

 

これからも細々とだけど、作っていきたいです。

5.よかったこと。

いくつかあるのですが、

 

 

・ポプシクリップ。を理解してもらう営業ツールになった

・ミュージシャンに提案できる企画の幅が広がった

・単純に喜んでもらえるし、自分たちも嬉しい

 

 

こんなところでしょうか。

「営業ツール」になったと書くとなんだかヤな感じだけど、ポプシクリップ。を説明する上でとても役立ったんです。

 

 

またミュージシャンに提案できる幅が広がったのも大きいです。

 

・ニュースリリース

・WEBでの取材、インタヴュー

・雑誌での取材、インタビュー

・タイアップ企画など

・ライヴイベント

 

これらを有機的に絡ませながら提案できるようになりました。最近は「パブリシスト」としても活動するようになったこともありまして、自分たちでできることが広がったのは大きいですね。貢献できる機能が増えたといったらいいかな。

 

 

あとは単純に喜んでもらえることです。それは読者の反応見てもそう思うし、掲載させていただいたミュージシャンにお渡しする際などにも思います。これまでも取材し、記事を書いて、WEB掲載することは数え切れないくらいやってきました。その際も喜んでもらえましたし、ミュージシャンや読者の反応がモチベーションになっているのですが、冊子だとその重みがなんか違うんですよね。「無料のWEB」と「有料の紙雑誌」の違い、五感の感じかたも含めてやっぱり後者の価値は私にとって大きいです・・・憧れのミュージシャンに手渡ししたときの感動は、毎回忘れられませんしね。

 

 

最後にまとめると

 

・ミュージシャンや読者が喜んでくれるから作っている。その前に自分が作りたいからやっている。

・デザイナーと二人だけで作っている(+ゲストライターやカメラマンなど)

・Amazon出したらそこそこ売れたけど、最低限継続していける程度。要はギリギリ

・イベントグッズの位置づけで企画を立て、ファンに届ける。これが一番重要

・WEBよりも信用してもらえる。営業ツールにもなった。単純に嬉しかった



まあ、単に好きなことをやっていて、それがたまたま今はイベントだったり、このインディーポップZINEだったりするだけなのかもしれないけどね。。。

 

 


 

 

インディー・ポップZINEのポプシクリップ。マガジン第6号は、Amazonと下北沢モナレコードで販売していただいています。

 

 

 

よかったらぜひ、お友達にも伝えてください。

 

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

これからもポプシクリップ。マガジンをよろしくお願いいたします。

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