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スカート 澤部渡 Call 発売記念インタヴュー

パブリシストに求められる人物像

●インディーズバンドのパブリシストやエージェントに求められる資質とは何でしょうか?

 

渡邊 「社交的で、営業好きな人が向いているよね。色んな要素があるけど、この二つは大事かな。あとバンドと良好な関係が作れるコミュニケーション能力かな」

 

●医者や弁護士に見られるような専門性・専門知識などは必要ないんでしょうか? 例えば企業で広報や宣伝プロモーションをやっている人間が望ましいとか? 数値目標から実行プランの策定と成果報告まで必要な仕事ですから、それには専門的な業務経験や知識が必要になりますよね? 特にメディアとの関係を持っているかどうかはかなり重要な要素だと思いますが?

 

渡邊 「音楽業界って、一般企業で働いている感覚と多分違うんだよね。一般的な広報業務や教科書的なものを知っていてもそれだけじゃ音楽のパブリシストにはなれない気がするし、僕のパブリシスト講座でもそういったことは教えていないんですよ。一番大事な資質は“担当するアーティストのことを好きになれるかどうか”なんだよね。どのようにそのアーティストをプロモーションしていけばいいのか、突飛なことをやるのではなくて、愚直に地道に続けていくことに飽きない人が向いていると思う。ただ、ゆくゆくは左上のバンドも担当することを考えるのであれば、右下と左上でやることのギャップは結構大きいから、そこは勉強しないといけないね」

 

●パブリシストにはどの程度の業務範囲・仕事の幅が求められるのでしょうか? フライヤーを作ってライヴハウスで配るのはもちろん、WEB広告を企画して掲載してもらったり、リリース原稿を書いてメディアに送り、アクセス解析をして効果測定結果をレポートで報告したり、ラジオや雑誌媒体に掲載を働きかけたり、バンドのビジュアルイメージを企画制作したり・・・幅広い仕事があります。

 

渡邊 「例えばリリースを一つの例にとると、右下に位置するバンドの場合、リリースを書いてメディアに出すにしても恐らく100媒体も出してないんだよね。それなのにどのメディアにもメールの”BCC”を使って同じ内容のリリースを送る人が本当に多いんですよ。その内容も一般的なことしか書いていなかったりね。そのバンドならではの“らしさ”を書いていない広報マンがたくさんいるんです。アーティストのことを理解しているパブリシストの場合はそれが言葉にも出てくるし、メディアの特性に合わせて原稿を書き分けたりもするんです。最低それくらいできる人が求められると思いますよ。言い換えると一般の商品と同じような書き方しかできない人はダメだと思いますね。だからさっきも話したように担当するバンドが好きであるか、情熱を持っている人が大事だなと思いますね。特に右下に位置するバンドは、その個性をちゃんと伝えられる人、そういう気概を持っている人でないとね」

 

●そうなると、左上で経験を積んだ方がフリーで右下のバンドを手伝うという形がやっぱり望ましいのでしょうか? 経験がないと難しいですよね?

 

永田 「それが単純にそうとも言い切れなくて、左上で働いていた人の場合専門能力はあっても、できる仕事の幅が限られている人も多いんですよ。例えばメディアは回れるけど、リリースは書けない、とかね。だから、組織の縦割りで仕事をしているだけの人は難しいかもしれない。右下のバンドをサポートする場合はどちらかというと必要な業務をすべてそれなりにこなせる人が求められますから。もしくは経験はなくても柔軟に対応できる人がいいよね」

 

●今のお話を聞いて、右下のバンドをサポートするパブリシストを増やすのは難しいと感じました。ニーズがあるのはわかるんですけど、マルチに色んなことができて、それでいて、お金にはならないわけですから(苦笑)、そのバンドのことが好きでないと誰もやりたがらないですよね。それにそれだけの仕事をできる人であれば、逆に左上や右上で働いて一定の収入を得られるでしょうし、そのように考えるのが自然ですから矛盾している気がするんですよ。

 

渡邊 「そうなんですよ。だから中々出くわさないんです。それで言うと献身的な人でないと無理でしょうね。あとは他の仕事でちゃんと稼いで生活ができている人かな」

 

永田 「それでいうと職業と職能の話があると思っていて。今すぐにはまだパブリシストといっても日本では職業としては成り立たないと思うんですよ。特に右下のバンドをサポートしようと考えている人はお金にもならないからね。でも職能として必要なのは明白だから、他の仕事もしながらサポートする働き方をできる人が向いていると思いますよ」

左:渡邊ケン 右:永田純
左:渡邊ケン 右:永田純

●それってお二人が手がけられた一昨年のYEBISU MUSIC WEEKENDという音楽フェスのテーマのひとつにも挙がっていた「ダブルワーク」の働き方にも通じるところがあって、他の仕事で生計を立てながらミュー ジシャンをやるのと同じように、他の仕事をしながらバンドのサポートをやるスタッフってことですよね。

 

渡邊 「そうなんだよね。21世紀になってそれまで好調だった音楽産業が右肩下がりになって、その中で右下のスタイルでも音楽ができるようになった。その中でサバイヴしていくことを考えたら、ミュージシャンだけでなくそれをサポートするスタッフも同じなんだと思うよ。そして今後右下の活動スタイルが定着して普通になったら、左上のやり方が普通じゃなくなってしまうんだよ」

 

永田 「そうして普通じゃなくなると、次は左上を目指す人が今度はいなくなってしまうかもしれない。今はその過渡期だからすぐにはそうはならないけどね」

 

●右下の領域でパブリシストやエージェントが根付く・広がるかは正直まだ疑問なんですけど、左上で経験を積まれた人がフリーの立場で活躍する機会は増えるとは思いました。

 

渡邊 「それは増えるよ、間違いなく。今はどこのレーベルも人員過多だから、そこを出た人が個人で活躍するようにはなると思う。そこから右下のインディーズバンドに広がっていく可能性もあるよね。レコード会社経験者が個人でPR会社を起こして、レーベルやミュージシャンから仕事を受託する、そういうPR会社は海外にはたくさんあるし、日本でもこれから増えていくと思うからね」

 

永田 「今の話はすごくわかりやすいね。今まではレーベルの中でプロモーションを行っていたわけだけど、それが外注されるようになる。つまり広告代理店やPR会社、はたまた個人のパブリシストの存在が確固たるものになる。そうすると、左上のバンドにおけるパブリシストとミュージシャンの関係は信頼関係とお金の両方の関係で成り立つだろうし、右下のバンドはお金がなくても、まずは信頼関係前提で成り立つことになるんだろうね。それって健全だし今までのやり方 と比べても透明性があがるよね」

 

渡邊 「そもそも音楽業界におけるパブリシティはお金を使わない無料のフリーパブリシティなんだよね。メジャーはお金も使うけど、インディーズはお金を使えないから、無料のフリーパブリシティしかできないだろうし、だからこそ求められていると思うよ。パブリシストやりはじめてみてどうですか?」

 

●僕ですか? そうですね・・・今日お二人が話されていた条件はまさにその通りだと思いました。サポートしているバンドが右上と右下の間に位置していて、別の仕事との兼ね合いもあるので、今はライフワークとしてパブリシストをやっています。自分の考えたプロモーションでCDのセールスがあがったり、音楽ナタリーや OTOTOYといった国内Webメディア、音楽雑誌などに記事として取り上げてもらったときは、バンドの役に立ててよかったなと、やりがいを感じることができましたね。海外のWebメディアやファンから連絡をもらったことがあって、それも嬉しかったです。あと、メンバーはもちろんバンドのファンがとても喜んでくれたんですよ。ファンからしたら自分の応援しているバンドがメディアに取り上げられることってやっぱり嬉しいんですよね。パブリシストが一人入るだけで色んなことができるようになるんだなと思いましたね。

 

渡邊 「そう、やれることは結構たくさんあるんですよ」

 

●僕の場合は編集記者の経験がとても生きているんです。ミュージシャンを取材するときは事前に作品をたくさん聴きこみますし、下調べもするからバンドの事に詳しくなるんですよね。俯瞰思考で音楽シーンにおけるバンドの位置づけも考えるんですけど、そのことがバンドと世間をつなぐ活動においても重要だと最近気づいたんです。これがとてもよかったんですよ。

 

渡邊 「それはいいことだね。パブリシストは文章を書けなければいけないので、ライターやインタヴュアーは向いているだろうね。バンドのキャッチコピーやイメージって相対的なところがあるから、どのように外から見えるのか、音楽シーンにおける位置づけを考えられることも大事だしね」

 

永田 「職業と職能の話でいうと、パブリシストを日本で職業にするのはまだ難しいけど、ライターをやりながら、マネージャーをやりながらといった複数の仕事をする中でまずは広がっていくんじゃないかな」

 

●一方でミュージシャン自ら宣伝業務やプロモーションを手がけることも増えてきましたよね?

 

渡邊 「確かにいるよね。ミュージシャン自らが一生懸命SNSで宣伝しているのを見るけど、僕はミュージシャンがそれをやったらカッコ悪いと思うんだよ。やることは否定しないけどミュージシャンやアーティストには、ある種のカリスマ性や夢が期待されると思うからね。日常のつぶやきはいいけど、プロモーションは別の人がやったほうがいいと思うし、そういう姿のミュージシャンを見ると幻滅するリスナーもいると思うからね。それに手が回らなくなるよ」

 

●等身大であることや頑張っていることを売りにしているシンガーソングライターにはピッタリかもしれませんが、夢を与えるバンドを目指す場合は合わないんでしょうね。その姿を見てリスナーが幻滅してしまうのはわかる気がします。最近の事象としてモスクワクラブ、Awesome City Club、YellowStuds のようにクラウドファンディングを活用して、活動プロセスを公開、応援する仲間を集めて、その人達をファン化していくような動きもあります。クラウドファンディングは文脈を考えて行えば、バンドとファンの間にWINWINの関係をもたらす素晴らしいツールですが、一方で見誤って失敗した事例も数え切れないくらいあるので、もう少し注視すべきですけど、ミュージシャン自らが手がける宣伝ツールの一つとしては注目だと感じています。

 

渡邊 「そうだね。予算のないインディーズバンドがやるならまだわかるけど、メジャーレーベルは予算もある程度あるわけだから、その人たちが安易にクラウドファンディングに頼るのはかっこ悪いし、イメージを下げる可能性が高いからよくないとは思うね。もちろんクラウドファンディングの本質を理解してやるならばいいと思うけどね」

 

●わかりました。そのほか、パブリシストやマネージャーなどバンドのスタッフ業務をやる上で大切なことがあれば教えてもらえないでしょうか?

 

渡邊 「基本は、献身性! 誰かのために役立つ生き方を大事にしましょう。それらを土台にアーティストの価値を確保するよう努めましょう。そんな意識が日常化できたら自然と、情報のライフサイクルが分かってきます。そして助け合う仲間をつくり、アーティストや仲間とお互いに良い刺激を与えあえる関係になれたらいいと思うよ」

 

●本日は貴重なお話ありがとうございました。

INFORMATION

みんなの談話室 vol.13

 

テーマ もう一度考える、ミュージシャンにとってのレーベルのこと、マネージメントのこと。 〜前・P-VINE、現・トノフォン A&R 柴崎祐二さんと語る、今、その可能性〜

 

 

ゲスト 柴崎祐二[シバサキユウジ]


1983年埼玉県生まれ。早稲田大学法学部卒業。
卒業後キングレコード株式会社へ入社、制作アシスタント、宣伝プロモーターとして勤務。
2009年、現株式会社Pヴァインへ入社。宣伝スタッフとしての勤務の後、主に邦楽A&Rとしてトクマルシューゴ、在日ファンク、シャムキャッツ、森は生きている、OGRE YOU ASSHOLEなど多くのアーティストの制作に携わる。


2016年4月からはトクマルシューゴの主宰する株式会社トノフォンにて、アーティストマネージメント並びに制作ディレクターを務める。
  

聞き手 永田純 [ミュージック・クリエイターズ・エージェント 代表理事]

 

日 時 2016年6月27日(月) 19:00 OPEN / 19:30 START

 

場 所 渋谷 カナエル

 

イベントホームページ

詳細はコチラ


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