こんにちは、ポプシクリップ。@音楽パブリシスト兼ミオベルレコードオーナーです。
2016年11月にゼロから立ち上げたミオベルレコード。
スタートしてから早くも3年が経った。
僕は音楽関連における自分の目標というかやるべきことを「生活の中に音楽があるDIYミュージシャンが、無理なく一生音楽活動を続けられるようにするためのサポートをする」と定義している。ちと大袈裟かもしれないけど、軸を決めておかないとブレてしまうんだよね。
連載記事のその2では、ミオベルレコード運営内容について書いてみます。
裏方の話なので、あまり興味がないと思うし、エンタメに夢見ている人からしたら知りたくないことがもしかしたら含まれるかもしれないけど、あくまでこれは僕のやり方なので、気にしないでね。
<第1回>
-数字で見るDIY音楽パブリシストの取組み実績
<第2回>
-レーベルの運営体制
-作品をリリースするときに考えていること
-音楽制作の考え方
-ミュージシャンからの要望に向き合う
<第3回>
-パブリシティとプロモーション
-パブリシストが取り組む音楽配信
-中堅DIYミュージシャンがサバイブしていく環境作り
-ミオベルレコードはどんなレーベルなのか?
-3年続けることができたのは何故?
-最後に
レーベルの運営体制
・基本的には、僕が運営する個人レーベル
・サポートメンバーが4人。全体の10%程度の業務を都度サポートしてもらっている。普段は音楽制作と直接は関係のない仕事をしている会社員。印刷会社で働いていたり、WEBデザイナーだったり、カメラマンだったり、研究者など。会社仕事の合間に本業のスキルを活かして手伝ってもらう。いわゆるプロボノ。
・東京に3人、大阪に1人、仙台に1人。献身的なメンバーばかりだ。本当に頭が下がる。
一人でやらなかったのは昔読んだ津田大介さんと牧村憲一さんの著書「未来型サバイバル音楽論」で、一人でやってはダメだと書いてあったから(笑)。ちなみにサラヴァ・レーベルのピエール・バルーさんに、生前サラヴァを何人でやっているのか聞いたら、過去50年間、一番多いときでも4人だったそうだ。
作品をリリースするときに考えていること
・その音楽家の作品が好きであるか
・その音楽家に自分達が貢献できるか
決定前にスタッフや友達にも意見を聞いてから判断することも多く、スタッフの判断で断った案件もある。
僕のやっていること、実は周りにはなかなか理解されない(笑)。今の時代に音楽レーベルなんて絶対やらない、と言われたことも多々ある。しかも無償で膨大な時間をささげられるのは何故なの?と疑問を持たれることが多い。僕からすると自分の好きなことをやっているだけだけど。
正直会社員の友達には全く理解されない。でもNPOで医療系や福祉系、発展途上国支援をしている方々にはわりと理解してもらいやすい。彼らの多くは見知らぬ他人の利益のために献身的に働いている。その多くはボランティアだったりするし、報酬が出てもほんの僅かだったりする。
僕は以前障害を持つ子供達をサポートするNPOに、プロボノで関わったことがある。そのとき、第三者のために働く意義を強く感じてね。僕は音楽が好きだし、その音楽を生み出してくれるミュージシャンも大好きだ。だから大好きな人達のために働けるということは、心底嬉しいことなんだよね。
この前職場の元後輩が、イベントに遊びに来てくれたときに「先輩がとても生き生きとしていて面白かった」という感想を伝えてくれた。褒められてるんだか、普段の会社では死んでるように見えてるのか、よくわからないけどね。
話を戻そう。
普通のレーベルは才能のある若い人を発掘し、一生懸命売りこんで、それでヒットを作って利益を出したい、と考えるのだと思う。そして売れなかったら、さよならする。余談だけどメジャーでは2年契約が主流だけど、最近はスポット契約といってアルバム単位で契約をするバンドも多いみたいだね。
ミオベルはこのあたりが大分異なる。
ヒットは出たら嬉しいし、売れるのは大歓迎というのは前提の上で、でもそこを一番の目的にはしていない。そういえば、新人発掘もしていない。リスナーとして普通に音楽に接していれば、いいと思えるバンドやミュージシャンに自然と出会えるし、そういう話題って勝手に入ってくる。その出会いの中で縁があったらお手伝いする。もちろんアーティストと共にリスクを背負っているし、そもそも好きだからお手伝いしているので、出来上がった作品を一生懸命売る努力は言うまでもない。
反対にどこからか噂を聞きつけて声をかけてくれる方もいる、それも出会いだ。中にはこのバンドを手伝ったら売れるだろうなあ、と思うこともしばしばあるんだけど(笑)、だからといって声をかけたりはしない。
Alma-Grafe、杉本清隆のレコードカッティング作業の様子
音楽制作
アーティストによってやり方はバラバラ。
下記は作品のリリースまでに必要な主な業務を書きだしたものなんだけど
1.デモの作成
2.選曲やコンセプト決め、プリプロなど
3.レコーディング
4.ミックス
5.マスタリング
6.アートワークやパッケージデザイン
7.ディストリビューション(お店への発送などの物流業務や配信などの手続き)
8.パブリシティやプロモーション(お店やメディア媒体、プレイリスト、サブミッションメディアなどへの営業活動)
9.レコ発イベントなどの企画・制作・運営
10.反省そして次へまたつなげる
やってみてわかったことがある。
一口にレーベルといっても、5番以降のリリースだけやるレーベルと、1番の音楽制作から手がけるレーベルに分かれていること。そしてこの2つは似て全く異なるものであるということだ。リスクや責任範囲が大きく異なる。ミオベルは1番からお手伝いすることが多い。つまりミュージシャンと共に作品に対して責任とリスクを持つということになる。全部ではないけどね。1枚目の杉本清隆さんの1stシングルがそうだったから、その流れになった。
<基本的な考え方>
・音楽家の作りたいものを作る
・レーベルとしては環境整備が中心。企画案件を除き作品に原則口をはさまない。
スタジオでのレコーディングには全部立ち会う。それは主に下記の理由から。
・モノづくり=音にも責任を持つ
・音楽家や作品への理解を深める
・パブリシティの材料を探す
音についてはコメントしたり、気になった点は言うけれど、最終判断は全てミュージシャンに任せている。そうそう、レコーディングに立ち会うようになって思ったのだけど、僕はレコーディングスタジオが大好きだ。学生時代はブラスバンド部だったりピアノ研究会に所属していたからいわゆる音楽室にこもっていたのだけど、その雰囲気に似ているんだよね。
音楽家の作りたいものを作るのがミオベルの方針だから「最近シティポップが流行っているからそんな感じにしよう」とか「ここのメロディは○○ぽいから、もっと○○っぽくしたら」とか「このままだと売れそうにないから、もっとこうして」、「ここの歌詞はこう書き換えて」と要望を僕から言うことは一切ない。これ、ほんと。もちろん「どう思う?」と聞かれたらその時は意見を言うけれど、それを押しつけることは絶対ない。
どうやら普通のレーベルは口を出す人が多いらしいんだよね。歌詞を書き換えさせたり、トレンドに合わせさせようと楽曲をああしろこうしろと言うそうだ。また流行っているバンドと同じことをやれ、と言ったりね。それが音楽家の納得の上でレベルを引き上げる方向での提案だったら良いことだと思うけど、単純に売れるためにそうしたいとかだったら辞めた方がいいとは思うよ。仮に1回売れてもそのあと続かないから。
とはいえまず1回は売れることで、自分のポジションを確立、そしてその後に自由に好きなようにやる、という考え方も理解はできるからそこはアーティスト次第だね。外から見ていてなんとなくだけどクラムボンさんはそんな感じがする。メジャーで20年頑張って武道館までいって、そして独立、今はマイペースに自由にやられているように見える。
何故僕が意見を言わないのかというと、僕に意見がないからではなく、ミュージシャンの感性を優先するというレーベルの考え方だからだ。もっとこうした方が売れるんだろうなあ、アレンジをこうしたら売れるだろうなあ、と思うことは正直ある。ライターの立場として、リスナーの立場としてね。でも思っても言わないようにしている。ただ、その作品がその人の魅力を引き出せていないと感じたときだけは言う。そしてアーティストとクリエイター、職業作家はまた違う。さじ加減は難しい。
先日リリースしたミオベル・ラブ企画だけは、一番最初にモチーフを提示したけど、結局それも提示しただけ。ライナーノーツにあるように実際には全く違うものが生まれたりもした(笑)。でも曲がよかったらオッケー。この考え方は、サラヴァ・レーベルのピエール・バルーさんに生前直接教えてもらったことを参考にしている。
あと大事にしているのが、自分自身コンフォートゾーンに留まらないようにしよう、ということ。これは仕事でも何でも同じなんだけど、自分の好きなものだけに触れていると、その周辺だけのサークルに閉じてしまってそこから出なくなってしまうことへの恐怖があるんだよね。多様な価値観を取り入れた方が、結果として面白いものになると思うし、まんねりを打破するにも必要だと思うから。このあたりはカクバリズムさんやラリーさんやなりすさんを好きな理由でもある。特定のジャンルに偏らず、でも不思議とある程度のまとまりもある感じ。
ミュージシャンからの要望に向き合う
過去の事例を用意した。
原則どうやったら実現できるか?というスタンスで考えている。
レーベルの雰囲気が伝われば。
■ケース1
ジュエルケース(プラケース)のCDでリリースしようとしていた作品。アーティストからもう少し豪華なパッケージにしたいという要望があった。またデザイナーから特色を2色使いたいという話も。それを実現するには予算を増やす必要があった。そこで販売単価を引き上げることを提案。また特色を使える業者を新規で探した。結果、パッケージや印刷費用だけで10万円以上コストがあがったものの、販売単価の引き上げと流通コストの引き下げ、宣伝予算からの補充で調整。
■ケース2
ある歌をレコーディングしたときのこと、その場ではOKが出たものの、後日やっぱりやり直したいと相談を受けた。そこでレコーディングスタジオを追加で2日おさえて歌の録音を徹底的にやり直した。結果、満足のいく作品になり、そのミュージシャンも喜んでくれた。この追加した2日分のスタジオ代は当初予算に含まれていなかったけど、その後の流通コストの削減と、プレス費用を別件と複数まとめてプレス会社と価格交渉することで捻出した。
■ケース3
ある作品で経験のあるベテランディレクターを入れたいという話があった。その方が僕の知人だったこともあり、思い切って相談したところ快く引き受けてくださって、アーティスト側もすごく喜んでくれた。
■ケース4
アルバムを作りたいという話があった。でも過去作品の販売実績から試算すると、制作予算がまかなえるほどの販売見通しがたたなかった。正確には宅録中心にして、サポートミュージシャンを極力減らし、本人がほぼ全ての楽器を演奏してアレンジしたらできた。だけどその方の楽曲は、生楽器でスタジオでわいわい作る音がフィットしていた。そこでアルバムだけを作るのではなく、シングル含めて将来的に複数枚に分けてリリースしたいという提案をした。時間はかかるけれども、シングル、アルバムと複数枚リリースすることによる生涯収支から制作費を捻出することで調整した。
■ケース5
あるデザイナーにアートワークをお願いをしたいという話があった。ただその方の連絡先がわからなかった。ネットを調べてもわからずだったけど、3日かけて伝手を探してようやく連絡先を入手、飛び込みで相談をしたところ引き受けてもらうことができた。
実現できなかったこともある。ある作品で生のストリングスを入れたいという話があって、何人かのミュージシャンに打診したけど、時間と予算の都合で実現できなかった。これは僕の経験・パワー不足だった。ストリングスができるミュージシャンをあまり知らなかったのと、思っていたよりもギャラが高かったからだ・・・(代わりに別のアレンジをしてもらって、それも最高だった)
ミュージシャンの要望への向き合い方で難しいのは、音楽家にとって安易に優しいレーベルであってはならないんだろうなということ、だと思う。様々な要望がある中で、それがそのミュージシャンにとって本当にプラスになることなのか、というのをきちんと考えるようにしているし、意見が違うときはそれを必ず伝えている。また正直理解できないときは、一度はおまかせしてみる、ようにしている。
良好な関係を築くというのは甘かったり単純に優しいとかそういうことではなくて、どこか緊張感を持って向き合うというかね。上記ケースの要望に応えているのも、その方の人間性も見つつ、作品にとってプラスになると判断したからで。
ちょっとしたことなんだけど、そういったことを意識しないと続かないし、その音楽家にとってよくないと思うし。人間関係というのは本当に難しいし、うまく言えないのだけど・・・。客観性を持って接するというか、いい音楽を世に送り出すための同士というか仲間というかチームというか、そのために一緒にやっているわけだから、あくまでいい作品を作るという目的と照らし合わせて、そこを外れない範囲で向き合うようにしている。
基本的に要望は追加投資とセットの話になるから、それが意味のあることなのか、単なるワガママなのか・・・受け止めるのって難しいよね。ある人に言ったら、そもそもそういうのって売れてる人が言うべきことで、売れてもいないのに、そこまで要望するのおかしくない?と言われたこともあったしね。もしかしたらそれが普通の感覚なのかな、と思うこともある。
こういった線引きは難しいね。
最後は、その音楽家がやりたいという想いが強かったら、投資判断は人間性で僕は判断するかな。信頼できる人か否かかな。このあたりはそれまでの人間関係とか、お互いさまだよね、といったこととか、色々考えながらの判断になるかな。
次回はミオベルでのパブリシティやプロモーション、そして今後についても書いてみようと思う。