MK日記。目標は中堅ミュージシャンのベースキャンプ。音楽パブリシストがレーベル運営を3年やってみて感じたあれこれその3

こんにちは、ポプシクリップ。@音楽パブリシスト兼ミオベルレコードオーナーです。

 

2016年11月にゼロから立ち上げたミオベルレコード。

スタートしてから早くも3年が経った。

 

僕は音楽関連における自分の目標というかやるべきことを「生活の中に音楽があるDIYミュージシャンが、無理なく一生音楽活動を続けられるようにするためのサポートをする」と定義している。ちと大袈裟かもしれないけど、軸を決めておかないとブレてしまうんだよね。

 

最後となるその3では取り組んできたパブリシティや音楽配信などのプロモーションと、ミオベルの今後について書こうと思う。

<第1回>

-数字で見るDIY音楽パブリシストの取組み実績

 

<第2回>

-レーベルの運営体制

-作品をリリースするときに考えていること

-音楽制作の考え方

-ミュージシャンからの要望に向き合う

 

<第3回>

-パブリシティとプロモーション

-パブリシストが取り組む音楽配信

-中堅DIYミュージシャンがサバイブしていく環境作り

-ミオベルレコードはどんなレーベルなのか?

-3年続けることができたのは何故?

-最後に

パブリシティ(広報)とプロモーション(宣伝)

一般的なプレスリリースはじめとしたパブリシティなどの地道な営業活動をしている。このあたりは他のレーベルと大差ないんじゃないかな。ポプシクリップ。があるのは大きいけどね。ありがたいことに、これまで幾度も音楽ナタリーさんやOTOTOYさんなど有力な媒体でも取り上げていただいた。リリースも毎回掲載されるわけではなくて、掲載されたりされなかったりだけど。

 

昨年はミュージック・マガジンでSwinging Popsicleやコントラリーパレードのインタビューも掲載してもらったし、今年に入っても杉本清隆さん、常盤ゆうさん、美音子さん、シマダオサムさんらのMiobell Laβ企画を取り上げていただいた。また海外へのパブリシティも英語圏になるけれど少なからずやっている。

渋谷のラジオの渋谷系生放送。Swinging Popsicle 『24 Hours/I just wannna kiss you』のPR。野宮真貴さん、カジヒデキさんと
渋谷のラジオの渋谷系生放送。Swinging Popsicle 『24 Hours/I just wannna kiss you』のPR。野宮真貴さん、カジヒデキさんと
Music Drip。番組収録。コントラリーパレード『CONTRARY』のPR。黒沢秀樹さん、谷内里早さんと
Music Drip。番組収録。コントラリーパレード『CONTRARY』のPR。黒沢秀樹さん、谷内里早さんと
Swinging Popsicle とコントラリーパレードのインタビュー記事が掲載されているミュージック・マガジン
Swinging Popsicle とコントラリーパレードのインタビュー記事が掲載されているミュージック・マガジン
Miobell Laβ音楽ナタリー掲載記事(2020年1月21日)
Miobell Laβ音楽ナタリー掲載記事(2020年1月21日)

あとラジオも。今のラジオはネットで全国どこでも聴けるようになったから、以前よりもリスナーが増えている。聞き逃してもアプリやポッドキャストで後から聴けるし、何より聴いていて楽しいよね。SNSでの活用を含め、とても大事なんだ。コミュニティFMや地方のラジオ局中心に出演させていただいている。パーソナリティの方、ありがとうございます。

 

申し訳ないけど、テレビや新聞など大きな媒体への露出は難しい。僕にそれだけの伝手や何よりも予算がないからだ。この点は本当に申し訳ないと思う。

ミュージックビデオは予算の都合でなかなか作れないけど、プロモーションの一環で昨年1本だけ作ってもらった。コントラリーパレードの「ユートピア」という楽曲だ。良かったら見てね。サンドアートと影絵とグラフィックの融合で、とても面白い味のある作品に仕上がった。クリエイターの方々に心より感謝。

HMV recordsshopにて。杉本清隆、Alma-Grafe
HMV recordsshopにて。杉本清隆、Alma-Grafe
HMV recordsshopでのインストアイベント。杉本清隆
HMV recordsshopでのインストアイベント。杉本清隆
タワーレコード渋谷店での店頭展開。コントラリーパレード
タワーレコード渋谷店での店頭展開。コントラリーパレード
下北沢モナレコード。歌手常盤ゆうインストアイベント
下北沢モナレコード。歌手常盤ゆうインストアイベント
下北沢モナレコード。歌手常盤ゆうインストアイベント
下北沢モナレコード。歌手常盤ゆうインストアイベント

販売店での店頭展開。

昨年はコントラリーパレードの作品で、タワーレコードさんの旗艦店である新宿店や渋谷店で面出ししていただいた。すごく嬉しかった。よくよく考えたらコントラリーパレードの作品が、ミオベルでのオリジナルアルバム作品第1号だったんだよね。(歌手常盤ゆうもアルバムだけど、あれは企画案件だったからちょっと違う)周りでも話題になったし、ビックリされた。新参の個人レーベルでもこういうことができるんだなあ、とちょっと嬉しかった。でもこれはミュージシャンの力が大きいから、僕の役割はそれをきちんとつないだことだ。予算の都合もあり、大がかりな店頭展開はなかなかできないけど、どのお店も店頭で飾ってくれるのは本当にありがたいです。

 

インストアイベントも少しだけやらせてもらったんだけど、インストアイベントはなかなか難しい。

打診してもやらせてくれる場合とそうでない場合があるし、反対に誘われたけどスケジュールがあわなくて断ったこともある。

だけど基本的にはやりたいんだよね。リスナーの顔が見えるから。

パブリシストが取り組む音楽配信

一昨年から、音楽配信にも力を入れ始めた。サブスクでたくさん聴いてもらうための仕掛け、プロモーション活動。サブスクは現在プロモーションとして行っている。

ただし配信だけしても、PRをしないと全く聞かれないのが現実。

知名度の低いDIYインディーズ音楽家の場合、リリースしてもアルバム単位で月に累計1,000回も聴かれない作品が大半。1カ月にアルバムで1万回、1曲あたり1,000回聴かれていたらかなりいい方だ。

 

早耳リスナーや音楽ライターの間で話題になっているアーティストは、僕の観測範囲ではあるけれど、だいたい1万回から5万回程度/曲は聴かれている。さらに多い人だと10万回をこえる人もいるし、本当にごく一握りだけど100万回超える人もいる。

 

メジャーレーベルで活動しているアーティストは少なくとも数万回、10数万回は聴かれている方が多いね。これは媒体への露出が桁違いに多いから、逆にそれくらいやってもらわないとメジャーにいる意味はないとは思う。なので、お茶の間目線からしたら知名度があるわけではない10アーティストで約60万回聴いてもらえたというのは、悪くはないとは思ってはいるけど、決していいとも思ってもいないので、これからも地道に頑張るつもり。

 

世の中にはあいみょんやONE OK ROCKのように1億回以上聴かれているミュージシャンもいる。お茶の間の方が目にするメジャーで活躍している音楽家の方と比べるとインディーは規模が小さい。自分の取組みの、世間から見た相対的な立ち位置を把握するという意味では知っておくべきだけど、他人のことを気にしても仕方ないので、淡々と数字を積み上げるよう頑張りたい。。

 

 

サブスクでは月間リスナー数をいかに増やすのかもポイント。プロモーションが終わるとリスナー数がすぐに落ちるからね。固定ファンを獲得する、常時プロモーションが、サブスク時代には大事

 

Spotifyでは、アーティスト毎の月間リスナー数が一般公開されていて誰でも見ることができる。自分の好きなミュージシャンがどれくらい人気なのか見たらいいと思う。

 

音楽家からしたら気になるアーティストの数字を調べて、目標を立てるのに使ってもいいだろうね。なおSpotifyは、日本においてAmazon MusicやApple Music、LINE MUSICに続いて4番目(筆者調査範囲)に利用者が多いらしいけど、世界では2億人以上と、1番使われている音楽ストリーミングサービスだ。

 

個人のDIYアーティストに一番門戸を開いているのもSpotify。だから僕らDIYでやっている人には一番最初に力を入れるサービスだとは思う。Apple MusicやLINE Musicは、いわゆる業界の人でつながりを持っていないとPRをさせてもらえる余地がないのが実情だ。

 

プラットフォームによってよく聴かれるアーティスト、そうでないアーティストというのもある。SpotifyはAIによるアルゴリズムのプレイリストやエディトリアルチームによるプレイリスト、外部キュレーターによるプレイリストも豊富。またSpotifyに直接サブミットできることもあって、無名のインディーズアーティストでも楽曲が良ければ拡がる機会があるからオススメだ。プラットフォーム毎に配信地域も違うし、リスナー層も違うので、目的に応じて使いわけるのがいいだろう。

 

僕が個人的にサポートしている方々は平均年齢が40歳を超えていて、リスナー層も30代後半から50代前半が多いし、世界で聴いてもらいたいという考えがあるから、Apple MusicやSpotifyリスナー向けに主にPRしている。

 

だけどApple Musicだと週に3,000回聴かれるアーティストがSpotifyだと週に100回も聴かれないなんてことがある。その逆もまたしかり。だからアーティストは自分のファンにアンケートをして、どのプラットフォームを使っているか教えてもらうのも手だと思うよ。

 

 

それでサブスクではプレイリスト(=媒体)に入ることが、とっかかりとしては重要。プレイリストマーケティングと言われたりもする。実際に昨年に入ってからSpotifyやApple Musicの公式プレイリストにミオベルの作品がピックアップされるようになり、再生回数がかなり伸びた。2020年は「プレイリストのその先へ」なんて言われているけどね、どうやっていこうかなあと模索中。主要サービスのプリセーブ機能やサブミッションメディアはじめ、使えそうなものは全て使いながら、常時プロモーションという考え方で、色々やっていきたいとは思っている。まあ一番大事なのは結局好きになって固定ファンになってもらうことなんだけどね。

Spotify公式プレイリスト「キラキラポップ:ジャパン」。「ユートピア」が1カ月にわたりリストイン
Spotify公式プレイリスト「キラキラポップ:ジャパン」。「ユートピア」が1カ月にわたりリストイン
Apple Music の公式プレイリスト「ネオアコースティックベスト」。「Three cheers」がリストイン
Apple Music の公式プレイリスト「ネオアコースティックベスト」。「Three cheers」がリストイン

上記はパブリシストとしてPRや配信のサポートをしているあるアーティストの、特定のプラットフォームにおけるサブスクでの再生回数の推移の一部抜粋。(ミオベルレコード以外のアーティストです、念のため)。僕は2018年の10月からデジタルでのプロモーションにも力を入れ始めたんだけど、頑張ったところ月間の再生回数が、それまでの200倍以上伸びた。もともとほとんど聴かれていなかったのが、少し聴かれるようになったという程度だけどね。僕はネットマーケティングが専門でもあるから、そのあたりの知見を活かして自分なりにやってみたんだ。

 

ただ、これもうまく行く時と行かない時があって・・・楽曲の力にもよるところが大きいから、再現性はあまり高くない。ここはメジャーレーベルの体力が正直羨ましいところでもある。タイアップなどがないと話題も作れないし、なかなかね。ノンタイアップの中、WEBマーケの手法とサブスクマーケの手法を駆使して今はやっている。タイアップしてくれる企業さんや映画などありましたらお待ちしております(^^;。みんないい楽曲作ってくれると思います。

上記はミオベルレコードで年1回行っている新年会のときの資料の一部から抜粋したもの。

アーティストAはそれまで1週間に数回しか聴かれなかった方が、僕がお手伝いをしたことをきっかけに1週間に数千回聴かれるようになり、その傾向が半年以上たっても今もなお続いている。

 

アーティストBは立ち上げ時は結構聴かれたんだけど、その後続かなかった事例。

こちらは宣伝費で10万円程度、アーティスト自らが予算を捻出し宣伝投資もしていた。

一部で話題になったんだけど、それでもダメだった。

 

いい楽曲=お茶の間の人にも気に入ってもらえるレベル、でないと、なかなか難しい。

 

先にも書いた「再現性は高くなくやってみないとわからない」というのはこういうこと。パブリシストとして同じことをやっても、結果は異なってしまう。

 

予算をかけなくてもうまく行く時があれば、予算をかけてもうまく行かない時がある。勘違いしないでほしいのは、予算をかけてうまく行く時もたくさんあることだけど、費用対効果、つまり投資した宣伝費をかけた分だけ作品が売れるかどうかは、なかなか厳しいかな、というのは実情でもある。大人の中堅DIYインディーで、なかなか成功する法則というのは見つからない。余談だけどあいみょんやKing Gnuのプロモーションのやり方には共通点があって、最近ではそれがサブスク時代のヒットの出し方なんて言われている。あのやり方はとても参考になるし、ロジックもわかるけどメジャーだからできるやり方なので、99%に含まれる僕らの規模では僕らの規模にあった法則を見つける必要がある。

 

それでも上記グラフのAが何故再生回数が続いていて、Bが何故続かなかったのかは、理由は明白だ。それは日常のこまめな地道の活動、ファンベースを作れているかどうかという部分と他のプロモーションとの仕掛け方の違い。こうなるとパブリシティ単独の問題ではなくて、そもそものミュージシャンの活動スタイルを変えていかないと解決できないところになるため、パブリシスト単独で支援できる範囲をこえてくる。今後はそれも踏まえた提案活動をしていきたい。

※A,Bともにミオベルのアーティストではありません

ビリー・アイリッシュのような1%の才能があるミュージシャンは、曲が一人歩きをしてミリオン再生するだろうし、大手レーベルの取り合いになる。そうなったらたくさんお金をかけて宣伝してもらえて、メディアもほっとかないから話題にもなってと好循環を生む。でも99%のミュージシャンは、ブレイクはしない。それでもいい音楽を奏でていて、彼らの音楽を好きなファンがいる。

 

テレビなどのマスメディアにはほとんど登場しない99%のミュージシャンでも、地道なDIYプロモーション活動で一定程度聴いてもらえてファン作りにつながるような”再現性のあるやり方”、つまり仕組みというかノウハウを得ることが中長期的に大事だと思っている

レーベル企画のイベント打ち上げ写真。杉本清隆、コントラリーパレード、歌手常盤ゆう
レーベル企画のイベント打ち上げ写真。杉本清隆、コントラリーパレード、歌手常盤ゆう

目標は中堅のDIYミュージシャンがサバイブしていく環境作り

音楽の世界では、若い人、新人で新しいことをやる人が否応なく注目されやすい。若さは最大の武器。何人かの音楽プロデューサーにも聞いたけど、同程度に歌が上手い16歳と30歳だったら、絶対に16歳を選ぶと、皆が口を揃えて言う。だけどミオベルでお手伝いしているアーティストの平均年齢は40歳をこえている。みんな若いときに一度デビューなどを経験していて、その後独立してマイペースで活動をしている方々ばかり。だから若い人達とは違うやり方で、自分たちにフィットするやり方でやっていく必要がある。

 

年齢では30歳を越えてくると、注目を浴びづらくなるし「人生の選択」も迫られる。生活環境も変わり、音楽を続けられなくなる方がたくさんいるのが現実だ。僕はそこを打破したい。少なくともやる気のある音楽家が、普段は音楽以外の仕事していても、とにかく音楽を続けられる環境を提供したくて、そのやり方を模索している。

 

肌感覚だけど、20代から続けているバンドが40代になると、ライブに足を運ぶファンは1/5から1/10に激減する。以前も書いたけど、30代に入ると職場で責任を持つようになって仕事が忙しくなったり、家庭ができたり、子育てに忙しくなったり・・・音楽への時間がぐっと減ってしまう。子供が大きくなって50代前後になるとまた増えたりすることもあるんだけど、基本は減っていく。一昨年に紅白に出場した「純烈」という例外もあるけどねえ。日本では音楽がまだカルチャーとしてそこまで根付いていない。ファッションの域を出ていない。ストリーミングでそれが少しでも変わるといいんだけど。

 

それがわかっているから、ファンを維持するために大手レーベルでは若い人へのプロモーションを、タイアップやコラボをたくさんやって新しいファンをどんどん増やすことで維持・拡大をしている。ドラマやアニメ、映画のタイアップがいい例だよね。今は東南アジアなど海外にファンを増やそうとする動きも多々見られる。それはとてもすごいことなんだけど、インディーズでそこまではなかなかやれないし、難しいのが実情。その中でどうやってファンやリスナーを増やして音楽から収入を経てやっていくのか、課題は山積み。バンド毎で事情も異なるしね。

ミオベルレコードはどんなレーベルなのか?

 

・・・実は自分でもよくわかっていない。

 

例えばよくある個人レーベルって

・外国の音楽や旧譜の再発専門

・シティポップ、ネオアコ、テクノ、R&Bなど特定の音楽ジャンルに絞る

カセットやレコードなど特定のパッケージに拘る

 

ミオベルは元々僕が特定のジャンルに拘っていないこともあって、ノンジャンルであることと、そもそものきっかけが、杉本さんとアルマのCDをリリースしたいというところから始まっている。思い返せばこの時点でピアノポップとソウルミュージックという全く別の音楽ジャンルだ。「人を起点としたレーベル」だから、余計わかりにくいのかもしれない

 

 

もちろん拘りが何もないわけではなくて、共通した拘りもある。それは「歌とメロディ」。

これは拘っている。この2つがいいと思わないとリリースはしない。

でも、これってどのレーベルでも当たり前な気がするから、差別化要素ではないよね。

 

余談になるけど、レーベルを始める前にざっくり調べてみたら、個人レーベルは3年程度で辞めてしまう人が大半だった。聞いた範囲で整理するとその理由は主に5点程観測された。

 

・出したいと思うミュージシャンや作品に出会い続けることができなかった

・いくら頑張っても思ったほど売れなかったりして、やる意義が見いだせなくなった

・予算が続かなかった

・少し売れたとたん、他の著名レーベルや事務所にアーティストを持っていかれたり、喧嘩別れした

・そもそも興味本位だけで、そんなに長くやるつもりじゃなかった

3年続けることができたのは何故?

正直CDは思ったほど売れない。レコードはなおさら。ブームなんて嘘だからねえ(笑)。それは数字が証明している。例えばレコードブーム、確かにここ数年で大幅に伸びているのは事実だけど、生産量で調べるとレコードはパッケージ全体の1.5%しかない。残りの98.5%はCDが売れている。つまり好事家の範囲で留まっているのが実態。今後伸び続けて5%を超えてきたらブームと言ってもいいかもね。CDも数年前に聞いていた話と比べても毎年落ちている感じはある。だから音楽業界での一般的なやり方をしていたら、レーベルは絶対に続かなかった。

 

基本的な考え方として、生涯収支が赤字にならなければいいというところでやっている。このあたりはラリーレーベルさんの考え方を一部参考にさせてもらった。そして僕自身は利益を一切とっていない。必要経費を回収し、リクープした分は全額ミュージシャンに再投資するスタンス。それと数年スパンで長い目でものごとを見る。これで目の前の売上に左右されない考え方で続けることができている。現にリクープしている作品も出始めている。想定より遅かったけど、それが今後も続けばと思う。

 

そうそう、リクープの話でいうとミオベルではリクープしたら印税の配分を大きく変えるようにしている。もともとアーティスト1stを実現したいし、お手伝いしている方には末永く音楽を生み出してもらいたいからね。案件によって費用率が恐ろしく変わるから難しいんだけど、リクープ前は業界標準の印税率かそれにプラスアルファ、でもリクープしたら利益の50%から70%は戻すようにしている。これ、アーティストにしたらすごくいい話だと思う。通常はリクープしても印税の分配率を変えないところがほとんどだし、変えてもよくて10%から20%位でしょう。LD&Kさんが数年前に販促費を減らすかわりに印税率を刷新して話題になったくらいかなあ。他のレーベルの状況は知らないけど・・・。まあ、そんなに売れてないし、今はリクープしていない作品が大多数だから、それまでは申し訳ないけどね。既存の音楽業界の契約も勉強したけど、アーティストにとって不利な条件だなあとつくづく思ったこともある(一方でビジネスとしては仕方ないとも思う、だって売れなかったら赤字にしかならないし、博打みたいなものなので)。世界ではAWALというレーベル不要をうたう会社・サービスなども海外でも始まっているけど、あれは一定程度売れているアーティストしか契約できない=選別をしているので、実質ハードルが高くて僕らにとっては現実的じゃない。気軽に誰もが、ではないサービスなんだよね。

 

その上でミオベルが何故3年間も続いたかというと、その答えは同人誌や同人音楽と言われるマーケット、M3とかね、で活動している知人から教わった方法を一部取り入れたやり方をして経費を抑えているから。

 

といってもそんなに大それたことではない。多分、みんなが意識せずともやっていることだ。一部を除いてみんな生計は音楽以外、別の方法で立てている。音楽や漫画はライフワークの延長でやっているから、赤字にだけはしないようにすれば好きなことは続けられるよね、という感覚。DIYの最たる例で、学ぶべきことは本当に多い。

 

以前スカートの澤部君がYouTubeで、紙ジャケットを手作りでパッケージしていたのを公開していたけど、ああいったことを、みんな楽しみながら一生懸命やっているよね。それに音楽業界ならではの慣習をマージしたようなやり方をすることで続けられている。アマチュアのやり方とプロのやり方を混ぜているといったらいいのか・・・要はできる限りDIYにして運営コストをおさえているのと、販売方法を工夫しているってこと。僕がやっている分には余計なコストはかからないしね。だから出荷前は袋詰めとか全部一人で黙々とやっていたりするんだよね。ここでアーティストの方に手伝ってもらってもいいんだろうけど、よっぽどでない限りは僕一人かスタッフと一緒にやる。音楽家には他にやってもらいたいことがたくさんあるからね。部屋に閉じこもってCDがどんなお客さんに届くのかな?と想像しながら袋詰めをする、周りから見たら暗そうだけど、僕自身はとても楽しかったりする。

 

 

例えば下記のようなことって音楽家の皆さんどうしているだろうか?

 

・CDを作ったとき、全国流通の会社を使って全国一斉発売をする

・ミュージックビデオを作る

・CDを作るときはプレス会社に印刷まで含めて全てをお願いする

・話題作りはタイアップをするか、人気音楽家を起用したコラボ

 

誤解を招きたくないのだけど、ミオベルでも上記のことはやっている。

でも毎回全部はやらない。何故ならば作品毎に届ける相手と届ける順番というのがあり、それによってやり方を変える必要があるからだ。一律に同じことをやっていると実は無駄なコストを払っていたことになりかねない。ファンやリスナーを想像し、それに合いそうなやり方に変えるだけで、無駄なコストは減らせるし、その分を制作費や宣伝費にまわす。僕の場合ゼロからDIYでやってきたから、音楽業界の慣習というのを知らなかったのがよかった。

 

それと今はサブスクの時代。パッケージの売り方としてよくある発売から1カ月以内の垂直立上げで一気に売りきる垂直立上げマーケティングというよりも、サブスクとパッケージを組み合わせた、中長期の常時マーケティングが要。自ずとプロモーションの目線もやり方も変わる。僕自身も毎回トライ&エラーを繰り返していて、やり方も毎年変わっている。常時アップデートしている感じ。さっき数年スパンで物事を考えると言ったのは配信時代を見越してそういう考え方、コスト構造にしたのね。まだうまくは回ってはいないけど、これがうまく回っていけば、自ずとミドルクラス、中堅アーティストにとっては、理想の形になるんじゃないかなと思っていて。次の3年でそのあたりがうまく回っているといいなと思う。

 

だから僕のやり方は、音楽業界や出版業界の慣習、やり方とは、実務面では随分違っている。大手音楽レーベルの方や出版社の方と話すと、やり方が全然違うらしく驚かれる。でも個人出版、個人音楽レーベルを続けるために、CDや雑誌が売れない時代をサバイブして「長く続ける」ためのやり方を考えた結果、その現実解は今の方法・・・と少々大袈裟に書いていますけど、きっとDIYの方は普通にやっていることです、多分。

 

でも何よりも続けられたのは、こんな無名で実績のない個人レーベルから作品をリリースすると言ってくれた音楽家の皆さんがいたことと、そして買ってくれたリスナーの皆さんがいたから

 

 

最後に

周りから言われたことがあるのは、インディーなのに「音がいいよね」「芳醇なサウンドだよね」ということくらい。サウンドについては音楽家はじめ、エンジニア、スタジオさんのおかげです。僕はその環境整備をしただけだけど、そこにはこだわりを持っているかなあ。インディーだけど音はいいねとは言われたい。

 

あとは、やっぱりいい作品=ミュージシャンの納得のいく作品を作りたい、そこに重きを置きたいとは思う。多少赤字でもさ、納得できるものを作って、結果多くの人に聴かれたり売れたらいいね、というインディースピリットのある音楽家には向いているレーベルだと思う。

 

最近はスタジオの音に少しずつこだわりが出てきた。80年代から90年代のレコードの音ってとても良くて。それが何故なのかよくわかっていなかった。それでベテランのエンジニアや音楽プロデューサーに色んな話を聴いた。そうしたらその一つとしてはスタジオがとても大事であることを教えてくれた。

 

自分がいいと思うアーティストの作品を調べると、いいスタジオと実績のあるエンジニアさんが手がけていることが多かった。今は昔と違って宅録のレベルもあがっているから、単純にそうだとも言いきれないけどね。だから宅録も使いつつ、レコーディングスタジオでやれるときはなるべくやれたらいいなとは思う。メジャーでは当たり前に使われているニーヴの機材やビンテージマイクで録音すると、音がめっちゃいいということも実際に体験してよくわかった。確かにいいし、好きだった音がそこにあるというか。ため息しか出ない・・・もちろん、いいメロディやいい音楽はスタジオを選ばない、というのもその通りだとは思うけど、いいスタジオとそこにいる腕利きのエンジニアのおかげで、そのメロディが何倍にもパワーアップすることも事実。それにスタジオ毎に色んな空気があってそういうのも好きだったりする。今は色んなスタジオで経験を積ませてもらいながら選択肢を広げ、作品毎にフィットするスタジオを音楽家に提案できるようになれたらいいなと思う。それとリスナーの耳も肥えているからね、音悪いとわかる人にはわかってしまう。あえてやっているならばともかくいい音に慣れているリスナーには、同等クオリティで届けたいという気持ちもあるというか。

 

 

この3年間、音楽パブリシストという立場からわかったこともある。

 

・いい曲を作ってもそれだけでは何も起きない。マジックはない。地道な努力をすればするほど聴いてもらえる

・奇妙なことや尖ったことをやらなくても、マジメにやっていれば、多少はメディアに取り上げてもらえることもあるし、音楽家に貢献できることはたくさんある

・大成功したいならば、人がやっていない新しいことをやるか、何かしら尖ったことをやって話題作りや注目を浴びないと難しい

・音楽配信時代では、常時パブリシティと継続運用という視点がとても大切なので、パッケージとうまく絡めた組み立てが必要

・現実的に個人レーベルではプロモーションに限界があるのも事実。それを理解してくれる音楽家とやっていくことが大事

 

 

やっぱりメジャーはすごい。体力あるし、予算あるし羨ましい。そして15年以上続いているカクバリズムさんやラリーレーベルさん、7年続いているなりすレコードさん、本当にすごい。リスナーとしても好きなレーベルだけど、レーベル運営者としても本当にすごい。

 

 

その上でミオベルの3年間を振り返ると3つのことがある。

 

一つ目は毎年少しずつできることが増えている、ということ。PRできるメディア媒体も拡がっているし、サブスクなどの音楽配信についても多少は動かせるようになった。何よりも人づてで少しずつ輪が拡がりはじめている。だから来年、再来年とまたできることが増える=音楽家への提供価値があがる、ということになるだろうし、そうしなければいけない、とは思う。

 

二つ目は無欲なボランティア精神を維持できていること

音楽パブリシストには欠かせない思考、音楽家に献身的で在り続けること。

(実際にどこまでできているかはわからないけど)

 

三つ目は僕自身が楽しんでやっていること。

 

 

何にせよ、もう少しわかりやすい何かをアウトプットしていかなきゃいけないなとは思っている。

やっぱりわかりづらいというのは良くはないからね。ブランディングというか、そういうことももう少し考えていきたい。

 

それとポプシクリップ。、ミオベルレコードもそうなんだけど、それらひっくるめて音楽パブリシストというか、ミドルマンの立場からすると「DIY音楽家のベースキャンプとなるような、ワンストップサービスの提供」を目指していきたい。個別に請け負っているパブリシストサービスやディストリビューションサービスもそうだけど、音楽家には音楽制作やライブ、ブランディングなどになるべく専念してもらい、それ以外をサポートできる価値を提供できるようになりたいんだ。今の立場では、なかなか難しいけども。そうすることで、中堅の音楽家が健康的でいい作品を継続して生み出していける環境を提供し、一緒になって盛り上げていけたらいいなと思っている。

 

 

今後ともミオベルレコードとサポートアーティストをよろしくお願いいたします。

最後まで読んでくれてありがとう。