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Introduction

 

ギターポップファンにとって、今年は忘れられない夏になる!(もう終わるけどね)・・・なんて大袈裟かもしれないが、声を大にして言いたいのは、『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』がギターポップ愛に、そして多幸感溢れる作品で、全世界のギターポップフリークに絶対に観て欲しい映画だってことだ。

96年にグラスゴーで結成された世界的人気を誇るインディー・ギターポップバンド(近年はEDMの要素も取り込むなど楽曲のふり幅は広い)で、UKチャートに数多くの作品を送り込み、フジロックにも出演するベル・アンド・セバスチャンのフロントマンであるスチュアート・マードックが監督と脚本を務めたミュージカル映画、つまり音楽が主役の作品なのである。

約10年かけて完成されたこの映画は、脚本の完成より前に同名タイトルの音楽アルバムをリリースしてしまうほど。09年に作られたそのアルバムは、スチュアートのソロアルバムとしてギターポップフリークはじめ、インディー・ポップリスナーに大絶賛された。

主人公がキュートで、そのファッションや映像美にも話題が照らされている作品だけど、やっぱり主役は音楽だ。ギターポップにハイライトが当たった作品は久しぶりでそれがすごく嬉しかった。ギターポップが好きな主人公の映画なんて08年の『デトロイト・メタル・シティ』以来ではないだろうか?

カジヒデキが楽曲提供、出演もしたことでポップス・リスナーの間でも話題になった映画だが、ギターポップ好きの主人公が自分の意に反してメタルを演奏する設定なので、映画の中におけるギターポップの位置付けは決して高くなかったことは否めない。劇中では主人公がギターポップを演奏するとブーイングが起こったりもしていたし・・・。

この『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』はギターポップの魅力が前面に取り上げられている作品だ。スチュアートが作っているから当たり前と言えばそれまでだけど、ギターポップの特徴である「ヴォーカリスト、歌が前面に出ている」「心に染み入る感傷的なメロディが大事にされている」「アコースティック・サウンドが大きな役割を果たしている」が、主人公のイヴとジェームズ、キャシーによるバンドの成長過程と人間関係の中で大変丁寧に描かれている。劇中に登場するゴッド・ヘルプ・ザ・ガールと一緒にバンドを組みたいと思ったのは筆者だけではないだろう。

一般的に、特にサウンド面において、キラキラした可愛い印象の強いギターポップだが、映画では内省的な面もクローズアップされている。イヴが鬱病で拒食症であることや、性に意外と奔放であることでジェームズの気持ちを惑わせたりするなど、厳しい現実と向き合わなければならないシーンに何度も直面する。しかしながら辛いことを単に辛く歌うのではなく、ギターポップというアプローチで美しいメロディやアレンジで表現できるのがスチュアートの天性のポップネスなのだ。身近に起きた出来事を軽快な音楽にのせることで、彼女たちの葛藤を癒したり、気持ちを落ち着かせる。そして病気で一時期引きこもる生活を余儀なくされていたスチュアート自身がこの映画のロールモデルとなっていることも考えると妙に納得がいく。

そんなギターポップの魅力が詰まったこの映画を多くの人に紹介したく、今回ポプシクリップ。にて特集企画を行うことになった。本特集では音楽ジャーナリストの伊藤英嗣さんとミュージシャンである山田稔明さん、藤島美音子さん、杉本清隆さんに劇場へ足を運んでいただき、コメントをはじめ映画ファンに向けてのオススメのアルバムをご紹介いただいている。この特集が映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』を楽しむきっかけになれば幸いである。

企画・構成・文 黒須 誠/編集部

 

Trailer

 

 


Story

 

スコットランドのグラスゴーのとある街。うつ病と拒食症のため実家から離れた病院に入院中の少女イヴ(エミリー・ブラウニング)は、一人ピアノに向かい曲を書いていた。次第に、音楽は彼女に生きる目的を与え、目の前に続く道となっていく。ジェームズ(オリー・アレクサンデル)とキャシー(ハンナ・マリー)もまたそれぞれ、自らの岐路でさまよっていた。

ジェームズは自分の理想とする音楽を一緒に追求する仲間に出会うことができず、キャシーは漠然と書いたり、演じたり、歌ったりしたいと思いながら、何から始めれば良いのか分からなかった。

ある日、イヴは、病院を抜け出し向かったライブハウスで、アコースティック・ギターを抱えたジェームズに出会い、さらに友人のキャシーを紹介された。ジェームズの案内で街をめぐりながら、イヴが作る音楽を聴いているうちに、3人は音楽を一緒に作り始めることに。その夏、3人の友情と恋が、音楽にのって始まった。

 


Impressions


伊藤英嗣さん(クッキーシーン編集長/音楽ジャーナリスト)

 

伊藤英嗣

プロフィール
1963年愛知県生まれ。文筆家、翻訳者、編集者。早稲田大学政治経済学部在学中よりバンド活動に熱中するかたわら、商業誌ライター・デビュー。90年代には一般誌、音楽誌、TV、ラジオを問わず多数の媒体にレギュラー登場しつつ、フリーランスA&Rとして、洋楽(エドウィン・コリンズ、ドミノ・レコーズなど)の邦盤 化に奔走する一方、邦楽もリリース。暴力温泉芸者(中原昌也)らのブレイクにスタッフとして立ちあう。1997年に隔月刊雑誌として自費創立した 音楽メディア/編集プロダクション、クッキーシーンを現在も主宰している。

 

オフィシャルサイト / オフィシャルツイッター / 伊藤英嗣ツイッター



映画を観ての感想♪

 素晴らしいですね。とりわけ一度でもバンドをやったことがあるひと、それをやりたいと思ってるひとは必見、って感じ。ベル・アンド・セバスチャンの音楽と同じく「一点突破的なパワー」はないかもだけど、じわーっとくる傑作だと思います。この映画のもとになったスチュアートのソロ作はもちろん聴いてますが(リリース・タイミングで、今も自分が主宰している媒体が「雑誌」だったころ「表紙」にもした:笑)、ストーリーに関する予備知識ゼロで観ました。だから、主人公が「強制入院させられるほど精神が不安定」という設定および、病院の場面で始まっていることに、びっくり。またこの手のシンクロニシティかよ、と(汗)。いや、ちょうど今、ぼく自身が「それ」をどう乗りこえたのか? みたいな原稿を、数ヶ月後に発売予定の書籍のために書いてる最中だから…。はらはらしつつ観てたけど、そういった意味で途中、主人公の台詞聞いて(感動のあまり)涙が出てきたし、いい感じの終わり方で安心しました。


一問一答♪

Q1:ベルセバの音楽と出会ったきっかけや思い出。

彼ら自身が影響を受けているインディー/オルナタティヴ/ポスト・パンク・ミュージックを、ぼくも80年代から好きだったので、普通に輸入盤店で買ったのが最初のきっかけ。そういった「流れ」を知ってくれていた日本のレコード会社ディレクター氏が、彼らの最初の日本盤ライナーノーツをぼくにふって(まかせて)くれたことも、いい思い出です。

Q2:監督でもある「ベル・アンド・セバスチャン」の好きな作品

基本的に彼らの作品は全部好き。この映画が気に入ったかたに、オリジナル・アルバムでとくにお薦めしたいものは、以下の5枚ですかね。 『If You're Feeling Sinister』(1996) 『The Boy with the Arab Strap』(1998) 『Girls in Peacetime Want to Dance』(2015) 『Dear Catastrophe Waitress』(2003) 『Tigermilk』(1996)

Q3:最近体験したキラキラした、甘酸っぱい出来事

そんなもの、ほとんどないです(笑)。

Q4:音楽とファッションの関係について思うこと

基本的に「カルチャーとしてのファッション」には興味をもっていますが、いわゆる「ファッショナブルな音楽」は好きじゃないですね、昔から。

Q5:この映画をもっと楽しむために次に何をしますか?

この映画と、異様にプロットが似てると思った大好きな映画『ザ・コミットメンツ』を見なおしてみたい。ただ、それは、こっちよりもっと強烈にワーキング・クラスっぽいですし、フランスのヌーヴェル・バーグやアメリカン・ニュー・シネマに通じる(つまり、今となっては、お洒落ともいえる)映像美へのこだわりみたいなものはあまりなかったですけど、基本精神みたいなものは近い。そして、ラスト・シーンあたりの「言葉の使い方」だけは、そっちのほうが、お洒落だった気がします(笑)。

この映画のファンにオススメのアルバム作品♪

パシフィック・ストリート Limited Edition ペイル・ファウンテンズ

1994/4/18 release

include 4 bonus track


Paciffic Street
ペイル・ファウンテンズ(The Pale Fountains)

 

映画を観ながら、フェルトとかザ・キンクスとか、いろんなバンドの名前が頭に浮かんだ(関係ないけど、な ぜザ・スミスだけ、わざわざ縦書きで字幕入れるかな? それやるなら、もっともっと入れるべきアーティスト名が大量にあったと思うよ… :笑)。いろいろ考えたんですが、やっぱ、これかな? リヴァプールの男性バンドによる、1984年のアルバム。オリジナルの11曲入りアナログ・ ディスクではなく、シングル曲がボーナス収録されたパターンの CDもしくは音源データがお薦めです。

 

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