REVIEW

新作旧作問わず、良いと思った音楽を伝えていく場のディスク・レヴューです。

不定期更新。

#006 『食べすすんでいくと、少ししょっぱい。』/humming parlour

食べすすんでいくと、少ししょっぱい。humming parlour

 

 

 

 

 

『食べすすんでいくと、少ししょっぱい。』

humming parlour

2013年5月8日発売 ¥1,800円(税別)

yukeyuke records/CD

 

<収録曲>

1. arpeggio

2. リーチ

3. I don't need a story, someone does.

4. to be star

5. triangle of the heaven

6. cherish

7. door

 

 

>>>Amazon.co.jp商品サイト

シブヤニシムラフルーツパーラー


text by 立原 亜矢子

泣きながら食べる喫茶店のパフェの味は、むせるほど甘ったるくて、涙のせいかどこかしょっぱい。まるで人生みたいだなとちょっとばかりくさいことも言いたくなるような、美味しいのだけど胸が苦しくて甘酸っぱい…そんな味がする。

それが、『humming parlour』という女性ヴォーカルkawaie.を中心としたユニット名と、201358日に発売された『食べすすんでいくと、少ししょっぱい。』という、フィジカルな形としては初めてリリースされるアルバムタイトル名を聞いて、はじめに感じた印象だった。

 

フェンスを突き破り、黄色いワンピースを着たパンツ丸見えの女の子が空を飛ぶ、可愛くて一際目立つジャケット。ワクワクしながら封を開けてCDをかけてみる。

優しく紡がれるメロディーとウィスパーヴォイスが軽やかに流れ出す。アドバンテージ・ルーシーやシンバルズ、ラウンド・テーブル、そしてカーディガンズをも彷彿させるようなネオアコ系ギター・ポップは、軽快で心が弾む。

 

1曲目「arpeggio」では、その名の通りアルペジオから始まり、《I can fly, because nice todayit's ready, it's trendy》《今日は飛ぶにはもってこいだ/すぐに行こう/ノリが大事!そうでしょ?》と現状から脱出したい願望を示し、《わたしはこの青い道を知ってる/素敵なタイと夏の嘘》と言うことで旅の行き先を教えてくれる。これは、旅立つ前の浮き足立っている感情を曲に込めているのだろう。BPM160ほどのアップテンポで、浮かれる気持ちをさらに後押しする。

 

爽やかなネオアコ系ギター・ポップだけではない側面が垣間みられる5曲目「triangle of the heaven」では、伊東達也(Gt)が影響を受けたというザ・スミスを想起させる、パンキッシュで透明感溢れる美しいギターの音色がキリっと際立つ。《緑がざわめく場所へと出たんだ/その中で君の記憶を見送る/ただ、何も言えず/踊っていたんだ》という、好きな人をただ遠くで眺め、記憶のなかで生き続ければ満足だという恋に臆病な歌詞もザ・スミスのようだ。

 

そしてラストの「door」は、それまでのイメージとは異なるしっとりとしたバラードソング。丁寧に指弾きされるアコースティックギター、グロッケンと鍵盤ハーモニカ、そしてぽつりぽつりとしたつぶやき。

自身の心情は、《続いてゆくこの星の少しを/瞬く間に駆け抜ける私は/ためらい、持て余すほど疎くて》と明確に話すのに、二人称に向けての願望は《叶うはずないただひとつ、「このまま」》と、曖昧に表現する。もっと歌いこみたいという気持ちをぐっとこらえ、感情を出し惜しみするため、この効果により、彼らが描き出そうとする世界を私たちは想像する。そのため、深い余韻が生まれ、心情や風景描写が明確に浮かび、より豊かなイメージへと広がってゆく。

 

「ああ!人生謳歌してる、毎日が楽しいわ!だけどね、ただただ楽しいだけじゃなくて、人生って色々あるんだよね……。」なんてリアリティのある日常も描き出すhumming parlour。ふり幅がある今作は、いつか食べたあの喫茶店のパフェのように、私たちをより一層楽しませてくれるに違いないだろう。

 

 

 


>>>発売記念インタヴューはコチラ

0 コメント

#005 『大統領夫人と棺』/高橋徹也

『大統領夫人と棺』
高橋徹也
2013年3月1日ライヴ会場先行発売 ¥2,100円/CD TVCD-003
<収録曲>
1.ブラックバード
2.ハリケーン・ビューティ
3.Key West
4.雪原のコヨーテ
5.不在の海
6.大統領夫人と棺
7.帰り道の途中

孤高の才能、7年ぶりの帰還


text by 渡辺 裕也

 デビュー当時の高橋徹也はよく小沢健二と比較されていたらしい。はて、そんな感じだったっけと彼の初作『Popular Music Album』を改めて聴いてみる。なるほど、これはそうした評価もやむを得なかったのかも。少年っぽさが残る溌剌とした歌声にオザケンを重ねる人がいたのはよくわかるし、なにより黒人音楽への憧憬(あるいはコンプレックス)がサウンドの背景にある両者だから、確かに類似点は少なくなかったのかもしれない。とはいえ、高橋がデビューを迎えた頃のオザケンといえば、まさに時代の王子様としてシーンのど真ん中に君臨していたわけで、音楽的な野心に満ち溢れていたであろう高橋にとって、ポップスターとしての地位をすでに確立していた小沢との比較は、決して素直に喜べるものではなかったと思う。


その後の小沢がすこしずつ活動を鎮静化させてシーンとの距離を置き始め、“渋谷系”と呼ばれたシティ・ミュージック志向の流れが収束していくなかで、気がつくと同時代に高橋と比類できるようなアーティストは見当たらなくなっていた。その間も自らの創作欲求に正直な姿勢でコンスタントに作品を形にしていく高橋。活動ベースをインディーに移した頃には、もはやデビュー当時の印象より、ストイックな音楽家としてのイメージの方がはるかに強くなっていたように思う。


さて、ここまでが05年の前作『ある種の熱』に至るまでの話だ。まさかこんなに間隔が空くとは思わなかったが、なにはともあれ、高橋徹也から久々の新作『大統領夫人と棺』が届いた。『ある種の熱』が世に出てから7年と少し。ライヴ活動こそあれど、昨年にキューンミュージック時代のベスト盤『夕暮れ 坂道 島国 惑星地球』がリリースされるまで、高橋からの音沙汰はほとんどないに等しかった。なので彼がこの期間をどのように過ごしてきたのか、筆者には知る由もないのだが、それもこの『大統領夫人と棺』を耳にした今となっては、さほど気にすることでもなくなった。本作は素晴らしい。ここにはかつての彼にはなかった洗練と新たな挑戦、そしてユーモアがある。


4人の演奏家たちを揃えてほぼ一発録りで臨んだという本作は、とても優雅なピアノの旋律から始まる。スケール感たっぷりのムーディな幕開けだ。演奏のパーツを見ていくとジャズへの傾倒は感じられるが、高橋の色気ある歌声が楽曲にポップ・ソングとしての芯を与えている。実際のところ、ロックを出自とするシンガー・ソングライターがジャズを通過したあとにつくる音楽として、これほど美しい形もそうないんじゃないだろうか。


ハイライトはなんといってもタイトル・トラックの「大統領夫人と棺」だろう。アフロビートを取り入れた細やかなリズムに乗って紡がれるポエトリーリーディング。“彼女”を主人公として語られていく架空のストーリーに、高橋の眼に映る現代社会の様相がはっきりと描かれていく。そこからコーラスになだれ込み、抑制されたアンサンブルが一気に解放されていく展開はまさに圧巻の一言だ。


90年代という時代と深く結びついたせいで身動きがとれなくなったアーティストも多いなかで、ここまで音楽性がアップグレードされている高橋はかなり異質の存在と言っていいと思う。それにAOR的なサウンドを参照点にする最近のインディー・ミュージシャンたちがこの作品を聴いたら、間違いなくびびるだろう。高橋徹也、およそ7年ぶりの帰還は、彼がアンタッチャブルな領域に踏み込んだことの報告でもあった。

 

続きを読む 0 コメント

#004 『DUET』/Chocolat & Akito

DUET Chocolat & Akito| 形式: CD

 

 

 

 

 

『DUET』

Chocolat & Akito

2012年11月28日発売 ¥2,000円/CD

 

<収録曲>

1. One

2. ジョヴァンニ

3. 扉

4. Daddy Daddy

5. Don't loose your heart

6. 静かな平和

7. 黒猫

8. Sweet dreams

 

 

>>>Amazon.co.jp商品サイト

ひとつになれたら


text by 立原 亜矢子

 地球が踊ったその日から、なにかにつけて愛だの勇気だの歌うものだから、正直いっておなかいっぱいだった。そういう意図が仮になかったとしても、その日を境に発表されたものは、そういう風に出来ているものだと見なされてしまう風潮がどこかにあるような気すらもした。そういう風に感じてとってしまう自分も嫌だった。本来ならもっと純粋なものだったはず。それでも音楽は鳴り続ける、もっと純粋に音楽を楽しみたい。

 

この世の中に散らばっている純粋なもの、それは愛だと私は思っている。人それぞれさまざまな形があるけれど、誰かを慈しみ、愛することは何物にも何事にも置き換えられない、心から涌きあがる純粋な感情である。もう愛だの勇気だのおなかいっぱいだと思っていたけれど、この『DUET』というアルバムは純粋にいいと思えた。自然と滲み出る優しい暖かさがとても沁みたから。

 

なるほど、じゃあこれは Chocolat & Akito 夫妻の愛が詰まった多幸感溢れる一枚なんだろうなあと侮ることなかれ。1曲目「one」から、その期待は良い意味で大きく裏切られる。なんと、いきなり失恋するのである。しかし、ここで指す失恋は、復縁できないといった修正不可能な失恋ではない。恋から卒業して、愛へと変化する様子を歌っている。もう相手なしでは生きていけないと確信した瞬間に、恋が本物の愛へと変わり、自然とふたりがひとつになる。「この世界を見つめると/言葉が奪われた/沈黙の中/孤独の中/確かな愛だけ/強く感じる」という描写は、相手の存在がどん底で真っ暗な絶望の中でも明るく照らしてくれる道しるべとなるということを言いたいのだろう。ボサノバのように鳴り響く曲調も相まって、ありふれた日常にある普遍的な愛にパッと明るさや彩りを与えてくれる。

 

そして、この曲は AkitoVoGt) ことソングライターの片寄明人がもうひとつ掛け持つ Great3 の「彼岸」と表裏一体になっていることにお気づきだろうか。「彼岸」も恋から愛へと変化する楽曲なのだが、相手を“死”という体験をもって失ってから本当に愛していたことを確信している。片寄自身、オフィシャルサイトで次のように語っている。「「彼岸」の直接的なテーマは、結果的に活動休止タイミングと重なってしまったデビュー前からのGREAT3のマネージャー突然の逝去から始まり、この約7年間に両手では数え切れないほど自分の身に起きた、大切な友人達との別れです。そしてそのいくつかの哀しみは白根賢一とも共有してきたものでした。ラブソングと言っても、この世を去っていった人達へのラブソングです。」

 

同じラブソングとはいえ、ここまで幅を持たせて歌詞を書ける片寄はやっぱり素晴らしく、5年9ヶ月待たせた私たちに最高の音楽を届けてくれたと言っても過言ではない。『DUET』というタイトルからもわかる通り、夫婦をテーマにし、今作のキー曲「One」をいきなりはじめにもってくる演出も私たちを放っては置かない。気持ちのいい憎さ。

 

そんないじらしさを思う存分発揮しているのは、4曲目の「Daddy Daddy」。4つ打ちのドラミングから始まるダンサブルチューンに合わせて、愛しいが故にしてしまう喧嘩の様子を可愛く歌っている。けれど、「Daddy Daddy Daddy Daddy 赦しこそ愛」と言い切ってしまう彼らは大人だ。まだまだ子ども(といっても23歳)の私にはまだわかりかねる世界だ…。

 

そして、今夏多くの豪華ミュージシャンによってリミックス及びミックス・アレンジが施されたことでおなじみの「扉」。シンセサイザーの突き刺さるようにまっすぐで軽快なサウンドは、どこかDaryl Hall & OatesTalking Heads といった80’sニューウェイヴのファンキーな印象も、50’sオールディーズの印象も受ける。

 

音は、過去に存在した古き良き時代のものを奏でているのに対し、出だしの歌詞は「閉じた扉は/無理にこじ開けず/執着しないで/開かれた扉/きっとその奥に/何かある」というように、様々なしがらみから解き放たれよう、未来へ向けて歩き出そうとする姿が見える。扉という言葉自体、次のステージへ進む通過儀礼のような意味も持つし、心のスイッチのような意味も持つ。おそらく聞き手に意味は委ねているのだろうけど、「知れば知るほどなんで/何も言えなくなるんだろう/まるで子供のように/無邪気になりたい/誰に笑われてもいい/後悔したくない/泣きっ面に蜂だって/少しでも前に進もう」と歌詞にあるように前進する人びとへ向けての応援歌のようだ。

 

冒頭で、もう愛だの勇気だのおなかいっぱいだと話したが、命の危険に曝されると家族の安否が気になるし、不安になると誰かの声を聞きたくなる。やっぱり根底には、豊かな愛が潜んでいる。そんな純粋無垢な気持ちを忘れたくないし、愛に触れるときのように、様々なしがらみから脱して、純粋に楽しく音楽を聴いていたあの頃の自分に戻れたような気がした。

0 コメント

#003 『夜はそのまなざしの先に流れる』/空気公団

夜はそのまなざしの先に流れる 空気公団 | 形式: CD

 

 

 

 

 

 

 

『夜はそのまなざしの先に流れる』

空気公団

2012年11月21日発売 ¥3,000円(tax in)/CD

 

<収録曲>

01.天空橋に

02.きれいだ

03.暗闇に鬼はいない

04.街路樹と風

05.つむじ風のふくろう

06.元気ですさよなら

07.にじんで

08.夜と明日のレコード

09.あなたはわたし

10.これきりのいま

 

>>>Amazon.co.jp商品サイト

一回性と構築性の共存


text by 渡辺 裕也

ライヴに勝るものはないと考える人は多いが、録音された音楽を聴く喜びもまた、かけがえのないものである。その魅力について語り始めるといつまでも本題にたどり着けなくなりそうなので控えるが、音源を聴くという行為は、もうそこにはない過去の空気と触れることであり、筆者はそこで巻き起こるロマンティックな感情こそがポップ・ミュージックの原動力だとさえ思う。「録音」に魅了され続ける音楽家は今も後を絶たない。そしてこの空気公団もまた、その作業に特別な情熱を捧げるバンドと言える。


ライヴならではの一回性と、録音芸術としての構築性。空気公団の新作『夜はそのまなざしの先に流れる』は、その両方を掛け合わせたような作品である。日本橋公会堂に聴衆を集めて公開された本作のレコーディングは、今野裕一郎が率いる演劇集団「バストリオ」との共演という形で敢行されている。彼らがこの試みによって実現しようとしたのは、バンドが音で表現する世界観の可視化/立体化であり、同時にそのイメージをさらに拡大させることでもあった。ヴォーカルでメイン・ソングライターの山崎ゆかりは、メンバーおよび演奏者、そしてバストリオに「穴」という本作のテーマを前もって伝えていたそうだが、その「穴」をどう表現するかは各々に委ねたのだという。テーマの解釈を揃えないままライヴ・レコーディングに臨むというのは、いささかリスキーなようにも思えるが、空気公団というバンドの本質はむしろここにあるのかもしれない。


つまり、空気公団の音楽とは、「山崎ゆかり、戸川由幸、窪田渡の3人」とイコールではない、ということである。そういえば、ライヴ・レコーディングを無事に終えてスタジオでの作業に移る際、山崎はヴォーカルを別人の声に差し替えることも検討したという。結局その案が採用されることはなかったようだが、こうして本作の制作プロセスを知っていくと、空気公団の音楽にはいわゆるバンドにありがちなエゴイズムがほとんど見当たらないことに気づく。結成からの15年間、常に彼らの活動の中枢にあったのは、その音楽が鳴り響く「時間」をとどめることであり、そこでパーソナリティの主張が求められたことは、恐らくこれまで一度もなかった。その「時間」に向ける探究心が結びついた先に生まれたのが、この『夜はそのまなざしの先に流れる』である。冒頭の“天空橋”から聞こえる秒針の音が、あまりにも示唆的に響いてくる

続きを読む 0 コメント

#002 『胸キュン☆アルペジオ Takayuki Fukumura with Friends』/Various Artists

胸キュン☆アルペジオ~Takayuki Fukumura with Friends

 

 

 

 

 

 

 

 

『胸キュン☆アルペジオ~Takayuki Fukumura with Friends』

Various Artists

2012年11月7日発売 ¥2,300円(tax in)DQC-977/CD

 

<収録曲>

01.Majestic Monochrome / Three Berry Icecream 
02.風の声 / 胸キュンFriends
03.STARS / advantage Lucy 
04.Color of sound / Bertoia
05.空の味 / Clay Hips:Brent Kenji (From USA/Germany)
06.言の葉 / 胸キュンFriends
07.RIBBON / Swinging Popsicle
08.カリフォルニア / 胸キュンFriends
09.Your Music Will Never Die / VASALLO CRAB75
10.Fly down / the primrose
11.アルペジオの環 / 胸キュンFriends

 

>>>Amazon.co.jp商品サイト

さよならの向こう側


text by 立原亜矢子

 アメリカはサンフランシスコに生息するローランドゴリラのココは、自分が大切に育てていた猫のボールが亡くなった瞬間、とても悲しみ、声をあげて泣いたという。さらに、手話が話せるゴリラとして有名なココは、“死”について、「Confortable hole bye. (苦労のない 穴に さようなら)」と手話で話し、人間よりも深い死生観を持っているのでは?と話題になったことは記憶に新しい。

 

死とは突然やってくるもので、上に話したように動物ですらも深い悲しみに包まれ、なかなか立ち直れない。イスラム教では、“人は2回死ぬ”といわれている。ひとつは、肉体の死。もうひとつは、人びとの記憶から消えてしまう死。

 

9年前に一人のギタリストが突然この世を去った。advantage Lucy、VASALLO CRAB 75の福村貴行、享年28歳。あまりにも早すぎる死に、周りは動揺し、悲しみに明け暮れた。人びとの記憶から消えないように、彼が生きていたという証を残そうと、今回10回忌の節目にトリビュートアルバム『胸キュン☆アルペジオ〜Takayuki Fukumura with Friends』が11/7に発売された。この一枚は、そんな彼の生き様を凝縮したかのような、ちょっぴりお茶目で優しく暖かいアルバムとなっている。

 

軽快で明るいギターのカッティングと甘く柔らかな男女ボーカルで始まるThree Berry Icecreamの楽曲を皮切りに全11曲の編成。ネオアコ/ギターポップの楽曲が中心となり、歌詞は亡くなった福村を想起して書かれている。しかし、当然だけれども、ただのネオアコ/ギターポップの作品集と片付けてはならない。このアルバムは、天国にいる福村へ向けてのラブレターといっても過言ではない。

 

9曲目に収録されているVASALLO CRAB 75による「Your Music Will Never Die」。楽曲タイトルの時点で、彼への愛が十二分に示されているのだが、「革ジャンに身を包んで/天然パーマのパンク少年/ギターを抱えて/夢をみる」との歌詞は、高校時代から共に過ごした工藤大介(Vo/G)から見た当時の福村の姿を現している。バイクで疾走しているようにスピード感のあるメロディに、透き通り突き抜けた歌声。そして、所々に見えるギラついたギターソロ、ぐっと上へ持ち上がるかのようなベースの運指が合わさって、聴いていて気持ちのいいドライブ感のある楽曲だ。彼が居なくなっても、良い意味で、辛さをもろともせず懸命に生きている印象を受けた。

 

また、advantage Lucyの「STARS」は、普段のadvantage Lucyとは異なる少しメロウで刹那的な楽曲となっている。中心となって楽曲を作成したアイコ(Vo)曰く、「アホな事を言ってコロコロよく笑う生前の福村をイメージした楽曲を作れたら最高」だと考えていたのだが、「ファニーな曲を目指して1曲作りかけていたのですが、どうも、しっくりこない。」ということを悩んだそうだ。

 

しかし、もし福村が生きていたら、ここでどんな楽曲を持ってくるだろうか?と考えた末に、生前彼が「自分たちのハードルを超えた曲しか出してこなかったこと」や「少しメロウな曲が好きだったこと」を思い出し、今回の作品制作に踏み切ったようだ。聴いてみると、「消えないよ/本当のことは/君と過ごした季節を/抱きしめる」と、ネガティブな言葉が随所に散りばめられ、少し暗く切ない。可憐な少女が日向で歌い遊ぶような、普段のadvantage Lucyからはあまり想像つかない歌詞だ。

 

しかし、この暗さは悪いものではない。彼らが福村の死を真摯に受け止め、次に私たちに出来ることは、彼の死を想いながら前へ進むこと、肉体はもうないけれど、精神は私たちの心に宿っているよ、星になってしまった福村よ私たちをそっと見守っていてね。という前向きなメッセージが込められているように感じられる。

 

そして特に、彼への愛を感じられた作品が、Swinging Popsicleの「RIBBON」だ。 ギターとシンセサイザーのメロディと柔らかいワルツのリズムにのせて、藤島美音子の優しい歌声が響き渡る。冒頭に「君の笑顔を思い浮かべるたび/あの頃の思い出が蘇ってくる」とあるように、歌い手である藤島が福村へ向けて言葉を贈っていることが聴いてすぐにわかるほど、明確に歌詞が書かれている。そのため、生前の福村を、写真や映像で見ているかのように、姿が鮮明に思い浮かんでくる。まるで“リボン”のように人と結びつき、おそらく福村を知らない人でも彼を想い、胸をじんわりと熱くさせるだろう。

 

死。それは切っても切れないもの。けれども、そんなに悲観することはない。なぜなら大勢の人たちによって、もう姿は見えないけれど、心の中でありありと生き続けるからだ。その、小さな灯火が消えない限り、私たちは福村の作った音楽で彼を思い出し続け、記憶の中で確かに生き続けるだろう。

 

 

0 コメント

過去記事

#006 『食べすすんでいくと、少ししょっぱい。』/humming parlour

食べすすんでいくと、少ししょっぱい。humming parlour

 

 

 

 

 

『食べすすんでいくと、少ししょっぱい。』

humming parlour

2013年5月8日発売 ¥1,800円(税別)

yukeyuke records/CD

 

<収録曲>

1. arpeggio

2. リーチ

3. I don't need a story, someone does.

4. to be star

5. triangle of the heaven

6. cherish

7. door

 

 

>>>Amazon.co.jp商品サイト

シブヤニシムラフルーツパーラー


text by 立原 亜矢子

泣きながら食べる喫茶店のパフェの味は、むせるほど甘ったるくて、涙のせいかどこかしょっぱい。まるで人生みたいだなとちょっとばかりくさいことも言いたくなるような、美味しいのだけど胸が苦しくて甘酸っぱい…そんな味がする。

それが、『humming parlour』という女性ヴォーカルkawaie.を中心としたユニット名と、201358日に発売された『食べすすんでいくと、少ししょっぱい。』という、フィジカルな形としては初めてリリースされるアルバムタイトル名を聞いて、はじめに感じた印象だった。

 

フェンスを突き破り、黄色いワンピースを着たパンツ丸見えの女の子が空を飛ぶ、可愛くて一際目立つジャケット。ワクワクしながら封を開けてCDをかけてみる。

優しく紡がれるメロディーとウィスパーヴォイスが軽やかに流れ出す。アドバンテージ・ルーシーやシンバルズ、ラウンド・テーブル、そしてカーディガンズをも彷彿させるようなネオアコ系ギター・ポップは、軽快で心が弾む。

 

1曲目「arpeggio」では、その名の通りアルペジオから始まり、《I can fly, because nice todayit's ready, it's trendy》《今日は飛ぶにはもってこいだ/すぐに行こう/ノリが大事!そうでしょ?》と現状から脱出したい願望を示し、《わたしはこの青い道を知ってる/素敵なタイと夏の嘘》と言うことで旅の行き先を教えてくれる。これは、旅立つ前の浮き足立っている感情を曲に込めているのだろう。BPM160ほどのアップテンポで、浮かれる気持ちをさらに後押しする。

 

爽やかなネオアコ系ギター・ポップだけではない側面が垣間みられる5曲目「triangle of the heaven」では、伊東達也(Gt)が影響を受けたというザ・スミスを想起させる、パンキッシュで透明感溢れる美しいギターの音色がキリっと際立つ。《緑がざわめく場所へと出たんだ/その中で君の記憶を見送る/ただ、何も言えず/踊っていたんだ》という、好きな人をただ遠くで眺め、記憶のなかで生き続ければ満足だという恋に臆病な歌詞もザ・スミスのようだ。

 

そしてラストの「door」は、それまでのイメージとは異なるしっとりとしたバラードソング。丁寧に指弾きされるアコースティックギター、グロッケンと鍵盤ハーモニカ、そしてぽつりぽつりとしたつぶやき。

自身の心情は、《続いてゆくこの星の少しを/瞬く間に駆け抜ける私は/ためらい、持て余すほど疎くて》と明確に話すのに、二人称に向けての願望は《叶うはずないただひとつ、「このまま」》と、曖昧に表現する。もっと歌いこみたいという気持ちをぐっとこらえ、感情を出し惜しみするため、この効果により、彼らが描き出そうとする世界を私たちは想像する。そのため、深い余韻が生まれ、心情や風景描写が明確に浮かび、より豊かなイメージへと広がってゆく。

 

「ああ!人生謳歌してる、毎日が楽しいわ!だけどね、ただただ楽しいだけじゃなくて、人生って色々あるんだよね……。」なんてリアリティのある日常も描き出すhumming parlour。ふり幅がある今作は、いつか食べたあの喫茶店のパフェのように、私たちをより一層楽しませてくれるに違いないだろう。

 

 

 


>>>発売記念インタヴューはコチラ

0 コメント

#005 『大統領夫人と棺』/高橋徹也

『大統領夫人と棺』
高橋徹也
2013年3月1日ライヴ会場先行発売 ¥2,100円/CD TVCD-003
<収録曲>
1.ブラックバード
2.ハリケーン・ビューティ
3.Key West
4.雪原のコヨーテ
5.不在の海
6.大統領夫人と棺
7.帰り道の途中

孤高の才能、7年ぶりの帰還


text by 渡辺 裕也

 デビュー当時の高橋徹也はよく小沢健二と比較されていたらしい。はて、そんな感じだったっけと彼の初作『Popular Music Album』を改めて聴いてみる。なるほど、これはそうした評価もやむを得なかったのかも。少年っぽさが残る溌剌とした歌声にオザケンを重ねる人がいたのはよくわかるし、なにより黒人音楽への憧憬(あるいはコンプレックス)がサウンドの背景にある両者だから、確かに類似点は少なくなかったのかもしれない。とはいえ、高橋がデビューを迎えた頃のオザケンといえば、まさに時代の王子様としてシーンのど真ん中に君臨していたわけで、音楽的な野心に満ち溢れていたであろう高橋にとって、ポップスターとしての地位をすでに確立していた小沢との比較は、決して素直に喜べるものではなかったと思う。


その後の小沢がすこしずつ活動を鎮静化させてシーンとの距離を置き始め、“渋谷系”と呼ばれたシティ・ミュージック志向の流れが収束していくなかで、気がつくと同時代に高橋と比類できるようなアーティストは見当たらなくなっていた。その間も自らの創作欲求に正直な姿勢でコンスタントに作品を形にしていく高橋。活動ベースをインディーに移した頃には、もはやデビュー当時の印象より、ストイックな音楽家としてのイメージの方がはるかに強くなっていたように思う。


さて、ここまでが05年の前作『ある種の熱』に至るまでの話だ。まさかこんなに間隔が空くとは思わなかったが、なにはともあれ、高橋徹也から久々の新作『大統領夫人と棺』が届いた。『ある種の熱』が世に出てから7年と少し。ライヴ活動こそあれど、昨年にキューンミュージック時代のベスト盤『夕暮れ 坂道 島国 惑星地球』がリリースされるまで、高橋からの音沙汰はほとんどないに等しかった。なので彼がこの期間をどのように過ごしてきたのか、筆者には知る由もないのだが、それもこの『大統領夫人と棺』を耳にした今となっては、さほど気にすることでもなくなった。本作は素晴らしい。ここにはかつての彼にはなかった洗練と新たな挑戦、そしてユーモアがある。


4人の演奏家たちを揃えてほぼ一発録りで臨んだという本作は、とても優雅なピアノの旋律から始まる。スケール感たっぷりのムーディな幕開けだ。演奏のパーツを見ていくとジャズへの傾倒は感じられるが、高橋の色気ある歌声が楽曲にポップ・ソングとしての芯を与えている。実際のところ、ロックを出自とするシンガー・ソングライターがジャズを通過したあとにつくる音楽として、これほど美しい形もそうないんじゃないだろうか。


ハイライトはなんといってもタイトル・トラックの「大統領夫人と棺」だろう。アフロビートを取り入れた細やかなリズムに乗って紡がれるポエトリーリーディング。“彼女”を主人公として語られていく架空のストーリーに、高橋の眼に映る現代社会の様相がはっきりと描かれていく。そこからコーラスになだれ込み、抑制されたアンサンブルが一気に解放されていく展開はまさに圧巻の一言だ。


90年代という時代と深く結びついたせいで身動きがとれなくなったアーティストも多いなかで、ここまで音楽性がアップグレードされている高橋はかなり異質の存在と言っていいと思う。それにAOR的なサウンドを参照点にする最近のインディー・ミュージシャンたちがこの作品を聴いたら、間違いなくびびるだろう。高橋徹也、およそ7年ぶりの帰還は、彼がアンタッチャブルな領域に踏み込んだことの報告でもあった。

 

 

編集部追記  

4月27日@所沢mojo/5月19日@渋谷サラヴァ東京のライヴ会場でも販売予定
一般店頭発売は5月下旬以降を予定
詳細は高橋徹也オフィシャルサイトをご確認ください。
0 コメント

#004 『DUET』/Chocolat & Akito

DUET Chocolat & Akito| 形式: CD

 

 

 

 

 

『DUET』

Chocolat & Akito

2012年11月28日発売 ¥2,000円/CD

 

<収録曲>

1. One

2. ジョヴァンニ

3. 扉

4. Daddy Daddy

5. Don't loose your heart

6. 静かな平和

7. 黒猫

8. Sweet dreams

 

 

>>>Amazon.co.jp商品サイト

ひとつになれたら


text by 立原 亜矢子

 地球が踊ったその日から、なにかにつけて愛だの勇気だの歌うものだから、正直いっておなかいっぱいだった。そういう意図が仮になかったとしても、その日を境に発表されたものは、そういう風に出来ているものだと見なされてしまう風潮がどこかにあるような気すらもした。そういう風に感じてとってしまう自分も嫌だった。本来ならもっと純粋なものだったはず。それでも音楽は鳴り続ける、もっと純粋に音楽を楽しみたい。

 

この世の中に散らばっている純粋なもの、それは愛だと私は思っている。人それぞれさまざまな形があるけれど、誰かを慈しみ、愛することは何物にも何事にも置き換えられない、心から涌きあがる純粋な感情である。もう愛だの勇気だのおなかいっぱいだと思っていたけれど、この『DUET』というアルバムは純粋にいいと思えた。自然と滲み出る優しい暖かさがとても沁みたから。

 

なるほど、じゃあこれは Chocolat & Akito 夫妻の愛が詰まった多幸感溢れる一枚なんだろうなあと侮ることなかれ。1曲目「one」から、その期待は良い意味で大きく裏切られる。なんと、いきなり失恋するのである。しかし、ここで指す失恋は、復縁できないといった修正不可能な失恋ではない。恋から卒業して、愛へと変化する様子を歌っている。もう相手なしでは生きていけないと確信した瞬間に、恋が本物の愛へと変わり、自然とふたりがひとつになる。「この世界を見つめると/言葉が奪われた/沈黙の中/孤独の中/確かな愛だけ/強く感じる」という描写は、相手の存在がどん底で真っ暗な絶望の中でも明るく照らしてくれる道しるべとなるということを言いたいのだろう。ボサノバのように鳴り響く曲調も相まって、ありふれた日常にある普遍的な愛にパッと明るさや彩りを与えてくれる。

 

そして、この曲は AkitoVoGt) ことソングライターの片寄明人がもうひとつ掛け持つ Great3 の「彼岸」と表裏一体になっていることにお気づきだろうか。「彼岸」も恋から愛へと変化する楽曲なのだが、相手を“死”という体験をもって失ってから本当に愛していたことを確信している。片寄自身、オフィシャルサイトで次のように語っている。「「彼岸」の直接的なテーマは、結果的に活動休止タイミングと重なってしまったデビュー前からのGREAT3のマネージャー突然の逝去から始まり、この約7年間に両手では数え切れないほど自分の身に起きた、大切な友人達との別れです。そしてそのいくつかの哀しみは白根賢一とも共有してきたものでした。ラブソングと言っても、この世を去っていった人達へのラブソングです。」

 

同じラブソングとはいえ、ここまで幅を持たせて歌詞を書ける片寄はやっぱり素晴らしく、5年9ヶ月待たせた私たちに最高の音楽を届けてくれたと言っても過言ではない。『DUET』というタイトルからもわかる通り、夫婦をテーマにし、今作のキー曲「One」をいきなりはじめにもってくる演出も私たちを放っては置かない。気持ちのいい憎さ。

 

そんないじらしさを思う存分発揮しているのは、4曲目の「Daddy Daddy」。4つ打ちのドラミングから始まるダンサブルチューンに合わせて、愛しいが故にしてしまう喧嘩の様子を可愛く歌っている。けれど、「Daddy Daddy Daddy Daddy 赦しこそ愛」と言い切ってしまう彼らは大人だ。まだまだ子ども(といっても23歳)の私にはまだわかりかねる世界だ…。

 

そして、今夏多くの豪華ミュージシャンによってリミックス及びミックス・アレンジが施されたことでおなじみの「扉」。シンセサイザーの突き刺さるようにまっすぐで軽快なサウンドは、どこかDaryl Hall & OatesTalking Heads といった80’sニューウェイヴのファンキーな印象も、50’sオールディーズの印象も受ける。

 

音は、過去に存在した古き良き時代のものを奏でているのに対し、出だしの歌詞は「閉じた扉は/無理にこじ開けず/執着しないで/開かれた扉/きっとその奥に/何かある」というように、様々なしがらみから解き放たれよう、未来へ向けて歩き出そうとする姿が見える。扉という言葉自体、次のステージへ進む通過儀礼のような意味も持つし、心のスイッチのような意味も持つ。おそらく聞き手に意味は委ねているのだろうけど、「知れば知るほどなんで/何も言えなくなるんだろう/まるで子供のように/無邪気になりたい/誰に笑われてもいい/後悔したくない/泣きっ面に蜂だって/少しでも前に進もう」と歌詞にあるように前進する人びとへ向けての応援歌のようだ。

 

冒頭で、もう愛だの勇気だのおなかいっぱいだと話したが、命の危険に曝されると家族の安否が気になるし、不安になると誰かの声を聞きたくなる。やっぱり根底には、豊かな愛が潜んでいる。そんな純粋無垢な気持ちを忘れたくないし、愛に触れるときのように、様々なしがらみから脱して、純粋に楽しく音楽を聴いていたあの頃の自分に戻れたような気がした。

0 コメント

#003 『夜はそのまなざしの先に流れる』/空気公団

夜はそのまなざしの先に流れる 空気公団 | 形式: CD

 

 

 

 

 

 

 

『夜はそのまなざしの先に流れる』

空気公団

2012年11月21日発売 ¥3,000円(tax in)/CD

 

<収録曲>

01.天空橋に

02.きれいだ

03.暗闇に鬼はいない

04.街路樹と風

05.つむじ風のふくろう

06.元気ですさよなら

07.にじんで

08.夜と明日のレコード

09.あなたはわたし

10.これきりのいま

 

>>>Amazon.co.jp商品サイト

一回性と構築性の共存


text by 渡辺 裕也

ライヴに勝るものはないと考える人は多いが、録音された音楽を聴く喜びもまた、かけがえのないものである。その魅力について語り始めるといつまでも本題にたどり着けなくなりそうなので控えるが、音源を聴くという行為は、もうそこにはない過去の空気と触れることであり、筆者はそこで巻き起こるロマンティックな感情こそがポップ・ミュージックの原動力だとさえ思う。「録音」に魅了され続ける音楽家は今も後を絶たない。そしてこの空気公団もまた、その作業に特別な情熱を捧げるバンドと言える。


ライヴならではの一回性と、録音芸術としての構築性。空気公団の新作『夜はそのまなざしの先に流れる』は、その両方を掛け合わせたような作品である。日本橋公会堂に聴衆を集めて公開された本作のレコーディングは、今野裕一郎が率いる演劇集団「バストリオ」との共演という形で敢行されている。彼らがこの試みによって実現しようとしたのは、バンドが音で表現する世界観の可視化/立体化であり、同時にそのイメージをさらに拡大させることでもあった。ヴォーカルでメイン・ソングライターの山崎ゆかりは、メンバーおよび演奏者、そしてバストリオに「穴」という本作のテーマを前もって伝えていたそうだが、その「穴」をどう表現するかは各々に委ねたのだという。テーマの解釈を揃えないままライヴ・レコーディングに臨むというのは、いささかリスキーなようにも思えるが、空気公団というバンドの本質はむしろここにあるのかもしれない。


つまり、空気公団の音楽とは、「山崎ゆかり、戸川由幸、窪田渡の3人」とイコールではない、ということである。そういえば、ライヴ・レコーディングを無事に終えてスタジオでの作業に移る際、山崎はヴォーカルを別人の声に差し替えることも検討したという。結局その案が採用されることはなかったようだが、こうして本作の制作プロセスを知っていくと、空気公団の音楽にはいわゆるバンドにありがちなエゴイズムがほとんど見当たらないことに気づく。結成からの15年間、常に彼らの活動の中枢にあったのは、その音楽が鳴り響く「時間」をとどめることであり、そこでパーソナリティの主張が求められたことは、恐らくこれまで一度もなかった。その「時間」に向ける探究心が結びついた先に生まれたのが、この『夜はそのまなざしの先に流れる』である。冒頭の“天空橋”から聞こえる秒針の音が、あまりにも示唆的に響いてくる

0 コメント

#002 『胸キュン☆アルペジオ Takayuki Fukumura with Friends』/Various Artists

胸キュン☆アルペジオ~Takayuki Fukumura with Friends

 

 

 

 

 

 

 

 

『胸キュン☆アルペジオ~Takayuki Fukumura with Friends』

Various Artists

2012年11月7日発売 ¥2,300円(tax in)DQC-977/CD

 

<収録曲>

01.Majestic Monochrome / Three Berry Icecream 
02.風の声 / 胸キュンFriends
03.STARS / advantage Lucy 
04.Color of sound / Bertoia
05.空の味 / Clay Hips:Brent Kenji (From USA/Germany)
06.言の葉 / 胸キュンFriends
07.RIBBON / Swinging Popsicle
08.カリフォルニア / 胸キュンFriends
09.Your Music Will Never Die / VASALLO CRAB75
10.Fly down / the primrose
11.アルペジオの環 / 胸キュンFriends

 

>>>Amazon.co.jp商品サイト

さよならの向こう側


text by 立原亜矢子

 アメリカはサンフランシスコに生息するローランドゴリラのココは、自分が大切に育てていた猫のボールが亡くなった瞬間、とても悲しみ、声をあげて泣いたという。さらに、手話が話せるゴリラとして有名なココは、“死”について、「Confortable hole bye. (苦労のない 穴に さようなら)」と手話で話し、人間よりも深い死生観を持っているのでは?と話題になったことは記憶に新しい。

 

死とは突然やってくるもので、上に話したように動物ですらも深い悲しみに包まれ、なかなか立ち直れない。イスラム教では、“人は2回死ぬ”といわれている。ひとつは、肉体の死。もうひとつは、人びとの記憶から消えてしまう死。

 

9年前に一人のギタリストが突然この世を去った。advantage Lucy、VASALLO CRAB 75の福村貴行、享年28歳。あまりにも早すぎる死に、周りは動揺し、悲しみに明け暮れた。人びとの記憶から消えないように、彼が生きていたという証を残そうと、今回10回忌の節目にトリビュートアルバム『胸キュン☆アルペジオ〜Takayuki Fukumura with Friends』が11/7に発売された。この一枚は、そんな彼の生き様を凝縮したかのような、ちょっぴりお茶目で優しく暖かいアルバムとなっている。

 

軽快で明るいギターのカッティングと甘く柔らかな男女ボーカルで始まるThree Berry Icecreamの楽曲を皮切りに全11曲の編成。ネオアコ/ギターポップの楽曲が中心となり、歌詞は亡くなった福村を想起して書かれている。しかし、当然だけれども、ただのネオアコ/ギターポップの作品集と片付けてはならない。このアルバムは、天国にいる福村へ向けてのラブレターといっても過言ではない。

 

9曲目に収録されているVASALLO CRAB 75による「Your Music Will Never Die」。楽曲タイトルの時点で、彼への愛が十二分に示されているのだが、「革ジャンに身を包んで/天然パーマのパンク少年/ギターを抱えて/夢をみる」との歌詞は、高校時代から共に過ごした工藤大介(Vo/G)から見た当時の福村の姿を現している。バイクで疾走しているようにスピード感のあるメロディに、透き通り突き抜けた歌声。そして、所々に見えるギラついたギターソロ、ぐっと上へ持ち上がるかのようなベースの運指が合わさって、聴いていて気持ちのいいドライブ感のある楽曲だ。彼が居なくなっても、良い意味で、辛さをもろともせず懸命に生きている印象を受けた。

 

また、advantage Lucyの「STARS」は、普段のadvantage Lucyとは異なる少しメロウで刹那的な楽曲となっている。中心となって楽曲を作成したアイコ(Vo)曰く、「アホな事を言ってコロコロよく笑う生前の福村をイメージした楽曲を作れたら最高」だと考えていたのだが、「ファニーな曲を目指して1曲作りかけていたのですが、どうも、しっくりこない。」ということを悩んだそうだ。

 

しかし、もし福村が生きていたら、ここでどんな楽曲を持ってくるだろうか?と考えた末に、生前彼が「自分たちのハードルを超えた曲しか出してこなかったこと」や「少しメロウな曲が好きだったこと」を思い出し、今回の作品制作に踏み切ったようだ。聴いてみると、「消えないよ/本当のことは/君と過ごした季節を/抱きしめる」と、ネガティブな言葉が随所に散りばめられ、少し暗く切ない。可憐な少女が日向で歌い遊ぶような、普段のadvantage Lucyからはあまり想像つかない歌詞だ。

 

しかし、この暗さは悪いものではない。彼らが福村の死を真摯に受け止め、次に私たちに出来ることは、彼の死を想いながら前へ進むこと、肉体はもうないけれど、精神は私たちの心に宿っているよ、星になってしまった福村よ私たちをそっと見守っていてね。という前向きなメッセージが込められているように感じられる。

 

そして特に、彼への愛を感じられた作品が、Swinging Popsicleの「RIBBON」だ。 ギターとシンセサイザーのメロディと柔らかいワルツのリズムにのせて、藤島美音子の優しい歌声が響き渡る。冒頭に「君の笑顔を思い浮かべるたび/あの頃の思い出が蘇ってくる」とあるように、歌い手である藤島が福村へ向けて言葉を贈っていることが聴いてすぐにわかるほど、明確に歌詞が書かれている。そのため、生前の福村を、写真や映像で見ているかのように、姿が鮮明に思い浮かんでくる。まるで“リボン”のように人と結びつき、おそらく福村を知らない人でも彼を想い、胸をじんわりと熱くさせるだろう。

 

死。それは切っても切れないもの。けれども、そんなに悲観することはない。なぜなら大勢の人たちによって、もう姿は見えないけれど、心の中でありありと生き続けるからだ。その、小さな灯火が消えない限り、私たちは福村の作った音楽で彼を思い出し続け、記憶の中で確かに生き続けるだろう。

 

 

0 コメント

#001 『胸キュン☆アルペジオ Takayuki Fukumura with Friends』/Various Artists

胸キュン☆アルペジオ~Takayuki Fukumura with Friends

 

 

 

 

 

 

 

 

『胸キュン☆アルペジオ~Takayuki Fukumura with Friends』

Various Artists

2012年11月7日発売 ¥2,300円(tax in)DQC-977/CD

 

<収録曲>

01.Majestic Monochrome / Three Berry Icecream 
02.風の声 / 胸キュンFriends
03.STARS / advantage Lucy 
04.Color of sound / Bertoia
05.空の味 / Clay Hips:Brent Kenji (From USA/Germany)
06.言の葉 / 胸キュンFriends
07.RIBBON / Swinging Popsicle
08.カリフォルニア / 胸キュンFriends
09.Your Music Will Never Die / VASALLO CRAB75
10.Fly down / the primrose
11.アルペジオの環 / 胸キュンFriends

 

>>>Amazon.co.jp商品サイト

人と人の向こう側


text by 黒須 誠

「人と人をつなげる天才だった」。

歌詞カードを1枚めくったところに書いてあるこのフレーズが全てを物語っているといっても過言ではないだろう。故人がつないだ多くのミュージシャンが、彼の死後9年の時を経て集まり、アルバムを作ることを故人はもとより誰が予想できたであろうか。

 

トリビュート・アルバムときくと、『TRIBUTE TO FLIPPER’S GUITAR〜FRIENDS AGAIN〜フリッパーズ・ギター トリビュート』などのように、大抵はそのアーティストをリスペクトする複数のミュージシャンが、そのアーティストの曲をカヴァーするコンピレーション・アルバムといった性格のものが多いが、本作品は全て新曲でわざわざこのアルバムのために全参加アーティストがオリジナル・ソングを書きおろしたというのだから、故福村貴行を知らない人でも、彼がどれだけ愛されていたのかはそれとなくわかるだろう。

 

advantage Lucy、VASALLO CRAB 75の元メンバーであった故人の10回忌の節目に制作された本アルバムは’90年代中盤から今もなお続くネオアコ/シューゲイザー/ギターポップスなど、現代の下北沢の音楽シーンの一端を彩るミュージシャンが多数参加しているのが特長で、先のバンドはいうまでもなく、20年以上音楽活動を続けている元ブリッジのイケミズマユミのソロ・プロジェクトであるThree Berry Icecreamをはじめ、Swinging Popsicleやthe primroseなどの中堅、若手シューゲイザーの新星とも名高いBertoiaまで幅広い年代のミュージシャンが集まっている。

 

収録されている全11曲は故人への様々な想いを形にしているため、極個人的、極私的な詞が多いが、だからこそ伝えたいことも明快で聴き手にとってこれほどわかりやすく感情移入できるものはないともいえる。それは今でも福村のことを愛し見守っていて欲しいという願いがこもったadvantage Lucyの「STARS」にある「星降る夜は まっさきに探すのさ/この広い星の中は君に出会えた奇跡で満ちてる」、彼との思い出をふりかえりながら今も一緒であることを歌ったVASALLO CRAB 75の「Your Music Will Never Die」における「ライブハウスで語り合った僕らの青春ミュージック/またいつかあの日の夢をみた夢をみる」などにも見られる。前者は煌いたギターのイントロと甘さと憂いを併せ持つヴォーカルaikoの歌が存分に生かされているし、後者は突き抜けるようなギターのリフが印象的な疾走感あふれる楽曲に仕上がっている。また力強さと優しさの抑揚が魅力の藤島美音子が歌うSwinging Popsicleの「RIBBON」は、軽快なワルツのリズムに「キミの笑顔を 思い浮かべるたび あの頃の思い出が蘇ってくる/キミはみんなを結び付ける まるでリボンのようだね そう思うんだ」と、冒頭にも書いた彼の天才っぷりを如実に表したストレートな表現で心に届きやすい。

 

アルバム最後を締めくくる歌は「アルペジオの環」。これは故人が残したデモ・テープをもとに制作された歌らしい。彼がギターのアルペジオが好きだったことと、その彼が好きだった音楽の環を広げたいという意図がストレートに反映された歌だという。彼への感謝の気持ちを伝えるのにこれほどうってつけの曲はないだろう。

 

福村貴行はもうこの世にはいない。でも彼が生んだつながりが新たな作品を生みだし、また多くの人々の記憶に残り広がっていく。彼は死してもなおこうして新たな音楽を、人と人とのつながりを生み出しているのだ。確かに「彼は人と人をつなげる天才だった」。この言葉に間違いはないだろう。

0 コメント