高橋徹也『大統領夫人と棺』発売記念インタヴュー

                

   

“メジャーに返り咲くんだ!”みたいなことを目的の一つとしてやっていた頃と今は全然違っていますね。

──今回のインタヴューにあたって送ってもらった資料を見ると、これを読んだらインタヴューしなくていいのでは?と思ったんですよ(笑)。その曲の成り立ちなりを過不足なり説明していて聴き所もさらっと入れているからライターが聴くことはないなあっていう(笑)。でもだからこそ高橋さんは調子がいいんだな、というのがわかるんですよね。

 

高橋 「以前はプレッシャーでライヴの前の日は眠れなかったり、根詰めてやりすぎて・・・じゃあ死ぬかな(笑)・・・大体そういう感じだったんですけど、今は、“お!、

きたきた!、いいねえ!”という感じなんですよ。大変なこととかプレッシャーがあることって“何て幸せなんだ!”って思えるようになっていますね。「20世紀少年」を書いている漫画家の浦沢直樹さんが、「プロフェッショナル 仕事の流儀」というテレビ番組で、“あなたにとってのプロフェッショナルとは?”という質問に“締切りがあること”と答えていて“確かに!”と。最近自分にも締切りらしきものが出始めていてやっぱりそれはすごいプレッシャーですけど、いいことなんだなと思いますね。アルバム作り終わって最近気づいたんだけど、イントロが2分位ある曲とか“これ絶対ラジオじゃかかんないぞ”みたいな(笑)。それだけ純粋無垢に楽曲のことしか考えていなかったんだろうなっていう」

 

──そういう状態で作られた音楽がどれだけあるのか?という話ですよね。

 

高橋 「いわゆるメジャー・シーンやインディー・シーンがあって“メジャーに返り咲くんだ!”みたいなことを目的の一つとしてやっていた頃と今は全然違っていますね。下手したら一見かっ飛ばしているような感じに見える露出の多いバンドとかでも、実際には集客や売上も全然なかったりとか。俺みたいに認知度がなかったり有名でもなんでもない奴なんだけど固定したファンの人がずっといてくれたりとか・・・そういうのは、なんとも言えなくなってきていて自分としては面白いと思うんですよね。食っていけるっていうか、大きな資本を持っているものに対して逆転できるっていう可能性もあるというかね」

 

──自然に音楽に向き合えるようになっているんですね。年齢などもあまり気にならなくなってきていますか?

 

高橋 「年齢はそうですね。社会的な立場ってのは感じますけど(笑)。音楽の体力、声が出るとか出ないとかは、むしろいっぱい練習するようになってどんどん体力がついたので、その辺は逆にフレッシュになっていると思いますけどね

 

前までは出し惜しみをしていたんだけど、とりあえず作品を出さないと次に進めないと思ったんです。

──シンガーはやっぱり声が大事ですから劣化が見られないってのはすごいことですね。例えば昔のキューン時代の高橋さんを聴いていた人が、久しぶりに今聴いても高橋徹也だってわかりますからね、絶対に。

 

高橋 「あまり言われないですね、声出なくなったとか(笑)」

 

──ちなみに自分の声に関して思うところってありますか?

 

高橋 「声っていうか“何を言っているのかわかるように歌う”というのはテーマとしてありますけどね」

 

──自分の声に関する好き嫌いを考えられていた時期はありますか?

 

高橋 「あんまりないですね。結構高い声の曲が多いんですけど、実は中域から低い声のほうが“すげえいいんだよ”って言いたいんです(笑)。そういう曲も徐々に出てきたり。日本でヒットしている曲はほとんど高い声だからそういうのが美徳みたいになっているけど、淡々と最初から最後までどこがサビだったの、みたいな曲って欧米だと普通にあるじゃないですか?、ヒット曲でも。自分はそういうのがすごく好きですけどね。親にも言われるんですよ、もうちょっとここの所こうした方が・・・みたいにね(笑)」

 

──洋楽コンプレックスも感じていませんよね。

 

高橋 「それはもう無くなりました。逆の意味で自分の手癖みたいなもの、それの怖さもあったんですけど、それも無くなりました。過去の俺みたいな曲ができるんですよ、やっぱり。おお、二周目来た!みたいな(笑)。俺の特許なんだから俺がまたやってもいいじゃん、みたいにね。作品を創るってことに対してもどんどんやっていきたいですね。やっぱりもっと発信していきたいなってすごく思うんですよ。長く友達でいるスカパラの加藤君がフィッシュマンズの茂木さんと一緒にやっているso many tearsというバンドを見に行って、自分と同じ40代なのに目がキラキラしてんぞ!、みたいな(笑)。とりあえずどんどんやってくしかねーな、みたいなのはありますね」

──今回の作品にも何か影響がありそうですが。

 

高橋 「今回のアルバムもすごく色々あるんですよ。もっとお金や時間もかけたいとか、身も蓋もないですけど全部やり直したいとか・・・でもだったらこれ出してから、別のもう一個新しいのでやればいいじゃんっていう、そんな感じですね。前まではずっと出し惜しみしていて、これはもう本当に自分が思う完全な形でやりたいからずっと温めておくんだっていう感じで・・・それで結構ずるずるきちゃったんですよね・・・7年も。とりあえず出さないと次に進めないんでね。音源にはなっていないけどライヴDVDに入っている曲ですげえ大好きな曲とかあるんですよ。ある一定の静かな感じの自分の作風のものが入っていて、その曲についてもレコーディングするまで色んな諸事情を待っていたら俺延々先に進めないと思ったんですよね。だからその曲についてはライヴDVDというかたちで決着したんです。残念だけど俺はこれ以上いい曲が書けるんだっていう気持ちで次に進むっていう。今回スタジオ・レコーディングは7年ぶりなんだけどこれもそういう気持ちですよね。あと正直ライヴでもこのライヴを見て欲しかった瞬間というのは、結構あるんですよ。初めて俺のことを知った20代の人とか、このアルバムじゃなくて去年のあの時のライヴを見てくれたら絶対にファンになるとか・・・それも言っていたらもう始まらないんでね(笑)」

 

                

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