高橋徹也『大統領夫人と棺』発売記念特集

                

   

『大統領夫人と棺』
高橋徹也
2013年3月1日ライヴ会場先行発売 ¥2,100円/CD TVCD-003
<収録曲>
1.ブラックバード
2.ハリケーン・ビューティ
3.Key West
4.雪原のコヨーテ
5.不在の海
6.大統領夫人と棺
7.帰り道の途中

孤高の才能、7年ぶりの帰還

text by 渡辺 裕也

 デビュー当時の高橋徹也はよく小沢健二と比較されていたらしい。はて、そんな感じだったっけと彼の初作『Popular Music Album』を改めて聴いてみる。なるほど、これはそうした評価もやむを得なかったのかも。少年っぽさが残る溌剌とした歌声にオザケンを重ねる人がいたのはよくわかるし、なにより黒人音楽への憧憬(あるいはコンプレックス)がサウンドの背景にある両者だから、確かに類似点は少なくなかったのかもしれない。とはいえ、高橋がデビューを迎えた頃のオザケンといえば、まさに時代の王子様としてシーンのど真ん中に君臨していたわけで、音楽的な野心に満ち溢れていたであろう高橋にとって、ポップスターとしての地位をすでに確立していた小沢との比較は、決して素直に喜べるものではなかったと思う。

 

その後の小沢がすこしずつ活動を鎮静化させてシーンとの距離を置き始め、“渋谷系”と呼ばれたシティ・ミュージック志向の流れが収束していくなかで、気がつくと同時代に高橋と比類できるようなアーティストは見当たらなくなっていた。その間も自らの創作欲求に正直な姿勢でコンスタントに作品を形にしていく高橋。活動ベースをインディーに移した頃には、もはやデビュー当時の印象より、ストイックな音楽家としてのイメージの方がはるかに強くなっていたように思う。

 

さて、ここまでが05年の前作『ある種の熱』に至るまでの話だ。まさかこんなに間隔が空くとは思わなかったが、なにはともあれ、高橋徹也から久々の新作『大統領夫人と棺』が届いた。『ある種の熱』が世に出てから7年と少し。ライヴ活動こそあれど、昨年にキューンミュージック時代のベスト盤『夕暮れ 坂道 島国 惑星地球』がリリースされるまで、高橋からの音沙汰はほとんどないに等しかった。なので彼がこの期間をどのように過ごしてきたのか、筆者には知る由もないのだが、それもこの『大統領夫人と棺』を耳にした今となっては、さほど気にすることでもなくなった。本作は素晴らしい。ここにはかつての彼にはなかった洗練と新たな挑戦、そしてユーモアがある。

 

4人の演奏家たちを揃えてほぼ一発録りで臨んだという本作は、とても優雅なピアノの旋律から始まる。スケール感たっぷりのムーディな幕開けだ。演奏のパーツを見ていくとジャズへの傾倒は感じられるが、高橋の色気ある歌声が楽曲にポップ・ソングとしての芯を与えている。実際のところ、ロックを出自とするシンガー・ソングライターがジャズを通過したあとにつくる音楽として、これほど美しい形もそうないんじゃないだろうか。

 

ハイライトはなんといってもタイトル・トラックの「大統領夫人と棺」だろう。アフロビートを取り入れた細やかなリズムに乗って紡がれるポエトリーリーディング。“彼女”を主人公として語られていく架空のストーリーに、高橋の眼に映る現代社会の様相がはっきりと描かれていく。そこからコーラスになだれ込み、抑制されたアンサンブルが一気に解放されていく展開はまさに圧巻の一言だ。

 

90年代という時代と深く結びついたせいで身動きがとれなくなったアーティストも多いなかで、ここまで音楽性がアップグレードされている高橋はかなり異質の存在と言っていいと思う。それにAOR的なサウンドを参照点にする最近のインディー・ミュージシャンたちがこの作品を聴いたら、間違いなくびびるだろう。高橋徹也、およそ7年ぶりの帰還は、彼がアンタッチャブルな領域に踏み込んだことの報告でもあった。

 

                

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