高橋徹也『大統領夫人と棺』発売記念特集

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高橋徹也、本人による全曲解説!

1.ブラックバード

 

上田禎さんの流暢なピアノ・イントロから幕をあけるオープニング・トラック。この曲は以前からトライしてみたかったことの一つ、ジョニ・ミッチェル的な言葉の抑揚とメロディの関係性、「喋るように歌うスタイル」を意識して作りました。

 

実際に日本語でそれをやるとなると妙に四畳半フォークっぽくなってしまったりして結構難しいものですけど、まぁ我ながら違和感なくできたのではないかと思います。自分の中では過去の作品にはない異種のスケール感と開放感を感じる曲で、作曲している時に凄く興奮しました。ジャケットに出て来る鳥のイメージとは少し異なりますが、作品の方向性を暗示している曲だと思います。

 

2.ハリケーン・ビューティ

 

これは実際にレコーディングしながら仕上げていった曲です。当初はいわゆるジャム・バンドっぽいラフな8ビート曲を意識していたのですが、シンセ・ダビングを進めていく中で、自然とお互いが好きな70年代中期のDavid Bowie や Brian Eno っぽい要素が入ってきたように思います。これまでの自分の作品にありそうでなかったサウンドかもしれません。

 

それと歌詞についても今まで自分が使ったことのない自然現象にまつわるワード「台風」「日没」「雷鳴」「海流」などを取り入れました。意外とポップスでは使いづらい日本語だと思います。この曲を書き上げた直後に続けてデカイ台風が来て妙に責任を感じました。

 

3.Key West

 

今作に収録されたそれぞれの楽曲を短編とするなら、それを静かに繋ぎ合わせてくれる景色がこの「Key West」と言えるかもしれません。数年に渡り注目してきたアルゼンチン・ジャズ~ポップスからの影響と、David Bowie ベルリン時代を意識した低音なアナログ・シンセ・ノイズの質感をうまく重ねることができたかなと思います。

 

あとはやはりヘミングウェイ小説からの影響は大きいですね。自分のレパートリーにある地名シリーズの中の一曲です。

4.雪原のコヨーテ

 

オールタイム・フェイヴァリットでもあるジョニ・ミッチェルの「逃避行」や、ECMレーベル諸作品から感じる「冷たい景色」を自分なりにイメージして作った曲です。Prohet5 によるパッド・シンセがその寒々しい背景描写の役割を担っていると思います。

 

鹿島達也さんの由緒正しき(笑)ジャコ・パス的なフレットレス・ベースと菅沼雄太さんの抽象的なリズム・アレンジはライヴを経て進化したものです。自分の個性である「物語性」が発揮できた曲だと思います。

 

5.不在の海

 

レコーディングの合間に予定外で録音したインストゥルメンタル曲です。元々収録する予定ではなかったのですが、M3「Key West」の反対側に位置する音楽風景として急遽アルバムに加えることにしました。ここでも上田禎さんによる荒涼としたアナログ・シンセの音色が重要な役目を担っています。

 

6.大統領夫人と棺

 

元々、今回のレコーディングの出発点にもなった曲で、当初これをシングルとしてリリースする計画がありました。ここ数年、とにかく強い音楽を作りたいという衝動が根底にあって、社会性と物語性の狭間を危ういバランスで行ったり来たりする独白のようなイメージで書き上げた曲です。

 

現実と寓話性。俯瞰と当事者目線。シリアスとコメディ。それらの相反する要素を内在する「彼女」というキャラクターが、ある重大な結論に至る瞬間のドキュメンタリーを描いたつもりです。ただこの手の曲はまがり間違えば説教臭くなりがちなので、言葉選びには少し気を使いました。聴いてくれた皆さんの想像力や読解力によって多角的に物語の結末を見出していただければ嬉しいです。あとサウンドに関してはアフロビートやトーキングヘッズを意識していたと思います。ライヴでも評判の良い曲で盛り上がりますね。

 

7.帰り道の途中

 

最近のライヴではアンコールで演奏することが多いシンプルなバラード・ナンバー。改めてアルバムを通して聴いてみると、意図してそうなった訳ではないのですが、いわゆる一人称で綴られる歌詞の曲が少ないことに気付きました。俯瞰目線というか、起きている事象を淡々と書き留めているという目線の曲が多いんです。

 

そんな中でようやく最後に登場する「僕」という一人称に我ながらホッとしました。ちなみに同時リリースのライヴDVDでも最後に演奏してます。そういうポジションがしっくりくる曲なんだなあと、ふと思いました。

<プロフィール>

高橋徹也

(タカハシ テツヤ)

高橋徹也

1996年 Ki/oon Music より 1st アルバム『POPULAR MUSIC ALBUM』でデビュー。多彩な楽曲を手がけるポップス職人的イメージから、劇的に変容を遂げた 2nd アルバム『夜に生きるもの』で圧倒的な存在感を示し、音楽関係者やリスナーに強い支持を受ける。その約半年後という驚異的なペースでリリースした 3rd アルバム『ベッドタウン』は、徹底したストイックな世界観からキャリア最高傑作との呼び声も高い。

 

2000年以降は VIVID SOUND から『NIGHT & DAY & NIGHT』『REFLECTIONS』、更に『ある種の熱』をリリース。そして昨2012年、Ki/oon Music 時代のベスト・アルバム『夕暮れ 坂道 島国 惑星地球』を発表。2013年はいよいよ約七年振りとなる待望のスタジオ・レコーディング作品『大統領夫人と棺』、更にキャリア初のライヴ映像作品『THE ROYAL TEN DOLLAR GOLD PIECE INN AND EMPORIUM』を同時リリース。

 

 

>>>高橋徹也オフィシャルブログ

>>>Twitter

 

掲載日:2013年10月6日

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